ここが空港？きっと誰もがそう感じてしまう、日本美術館のようなミュージアムホテルが北海道の新千歳空港にあります。江戸時代の絵画を中心に、多彩な美術・工芸作品を鑑賞できる空港直結のホテル、「ポルトム インターナショナル 北海道」です。葛飾北斎の北斎漫画をはじめ、アイヌ指導者を描いた18世紀の肖像画など、常時約450点もの日本美術の作品が客室やロビーなどに飾られています。

左官壁にかかる蠣崎波響（かさざきはきょう）の夷酋列像（いしゅうれつぞう）がお出迎え

「ポルトム インターナショナル 北海道」は、新千歳空港の国際線ターミナルビル内にあります。国内線ターミナルから国際線ターミナルまでは屋内連絡橋でつながっているので、雨や雪の日でも濡れることなく、一歩も屋外に出ることなく訪れることができます。もちろん空港外から訪れることもでき、国際線ターミナル1階バス乗り場付近から入ることができます。

国際線出発ロビーの一角からエスカレーターを上がり、一歩中へ入るとそこは別世界。どこかせわしない雰囲気が漂う空港内から一転、凛とした静けさが広がり、ここが空港内であることを忘れてしまうほどです。

ロビーまで歩みを進めると、左手の壮大な土壁のアートワークに目を奪われます。世界的な左官職人である久住有生（くすみ なおき）氏が、北海道根室地方の土を活かして独自の感性で北海道の広大な土地と豊かな自然を表現した作品です。

土壁にずらりと並ぶ絵画は、18世紀に松前藩の家老・蠣崎波響（かきざきはきょう）が描いたアイヌの指導者たちの肖像画「夷酋列像（いしゅうれつぞう）」。北国の旅籠へ訪れた旅人を出迎えているかのようです。

扉が開くと、吹き抜けを彩る壮大な染色織物が佇む

ロビーから客室まで向かう途中も、感性を揺さぶられるアートを楽しめます。ロビー階のエレベーターホールの前には雨をイメージしたアート作品があり、エレベーターを待つ間はまるで雨宿りをしているかのような感覚。

エレベーターに乗り、5階で降りてみましょう。扉が開くと、幻想的な水庭のような光景が目に飛び込みます。客室フロアの5階から8階まで吹き抜けの空間に、巨大な染色インスタレーションが彩られているのです。

5階から8階天井まで続くアートガーデン。「染司よしおか」による植物染めの作品で、羽衣のごとく繊細で優美な絹の布は圧巻。澄んだ空気のような北海道の四季を色のグラデーションでイメージしています。

寒色系の冬と春、暖色系の夏と秋の2種類用意されていて、約半年ごとに切り替わります。建物の中にいながらにして、色合いで季節を感じ取ることができる雅な空間です。

全客室に額装された北斎漫画、どの絵になるかはお楽しみ

客室は全6タイプで計171室。客室数の多いスーペリアルームやジュニアスイートのほか、ワンランク上のポルトムスイート、アッパークラスの数寄屋スイートなど、予算と趣向によって客室タイプを選べます。

特徴的なことは、全ての客室内に葛飾北斎の木版画「北斎漫画」が額装展示されていること。しかも全てオリジナル作品で、部屋ごとに絵は全て異なります。どんな絵に出会えるか楽しむのもよし、好みの絵から客室を選ぶのもよし。北斎ファンなら何度宿泊しても楽しみが失せることはないはずです。

路地裏のスイート「ジュニアスイート」

6タイプある客室のうち、おすすめの2タイプのお部屋を紹介します。1つ目は、比較的手ごろな価格で宿泊できる「ジュニアスイート」。

近世の街中の路地をイメージしたエントランスを抜けると、リビングとベッドルームが一体となった開放的な客室が広がります。テーブルと椅子は旭川家具の雄、カンディハウス製。壁にかかる北斎漫画や着物の古裂（こぎれ）の額装、飾り屏風などから日本の美を感じられる客室です。

窓の外には離発着する航空機が見え、ここが空港であることを再認識。飛行機の音はほとんど聞こえないので、ゆったり寛ぎながら行き交う飛行機を眺められます。

ビューバスがある手頃なスイート「ポルトムスイート」

次に紹介する客室は「ポルトムスイート」。最上階に4タイプあるスイートルームの中では比較的手の届きやすい価格帯です。

ジュニアスイートと同様に、和をモチーフにしたモダンな意匠が特徴的なお部屋で、北斎漫画や着物の古裂の額装も楽しめます。

ポルトムスイートがジュニアスイートと決定的に違うことは、飛行機の離発着を望めるビューバスがあること。やや深めの湯船で、まるで五右衛門風呂に浸かっているかのような感覚。湯船で寝そべらないため飛行機の離発着を眺めやすく、首が疲れにくいかもしれません。客室との境目の窓ガラスは、ボタン1つですりガラスに変わるので、気兼ねなく入浴できます。

ポルトムスイートのビューバスは温泉ではありませんが、温泉はホテル内の大浴場で楽しめます。木目調と石積の意匠の浴場があり、落ち着いた雰囲気で心も身体も心地よく解き放たれます。

ゲストサロン・ギャラリーはさながら江戸文化の美術館

ロビーや客室だけではなく、各所で和のアートを感じられます。なかでもゲストサロン・ギャラリーは印象的。江戸時代を中心とした日本美術を手軽に鑑賞できる宿泊者専用スペースです。

室内各所に禅画や水墨画、浮世絵などの絵画や掛け軸、骨董品が展示されていて、美術館へ訪れたかのような感覚に陥ります。ここで談笑するのを思わずためらってしまうほど。

この部屋の展示物の目玉は、1700年代に京都で日本画家として活躍した伊藤若冲（いとうじゃくちゅう）、または若冲の約30年前に活躍した臨済宗の僧で禅画を数多く残した白隠慧鶴（はくいんえかく）の掛け軸。展示保存の兼ね合いで数か月ごとに交互に作品が展示されるので、どちらの作品が登場しているかはその時のお楽しみに。

空港内とは思えぬ静寂な茶室で薄茶一服

アート観賞から一歩離れ、和の文化を体感してみるのも一興です。ロビー付近にある茶室「清風庵」では、本格的な和のおもてなしを受けられます。打ち水をして湿り気のある石畳の先には数寄屋建築の茶室や畳敷の大広間があり、とても空港内とは思えない佇まいです。

ここでは薄茶一服（2,500円、要予約）を体験できます。裏千家の作法で執り行われる本格的なお点前。座る位置やお菓子を食すタイミング、薄茶の飲み方などについても作法に則り進められますが、都度やり方を教えてもらえるので茶道の経験が全くない方でも安心して楽しめます。希望すれば実際に薄茶を点ててみることもできます。

基本的には畳敷の広間でお点前を体験しますが、正座が難しい方は隣部屋で椅子に腰かけて受けることもできます。足腰が強くない方や正座に慣れない外国の方々などを案内するには好都合です。

目と舌で美食を楽しめる和洋の名店2軒

ホテル内のレストランは、「京都 下鴨茶寮 北のはなれ」「TATERU YOSHINO（タテルヨシノ）」と和洋の名店2軒あります。ともに伝統を受け継ぎ妥協なく究め尽くした逸品を味わえる極上の店。どちらを選ぶか迷うこと必至です。

日本食ダイニングの「京都 下鴨茶寮 北のはなれ」は、京都市の下鴨神社近くにある創業160年の老舗料亭「下鴨茶寮」の暖簾を掲げます。伝統を継承しながらも独創的な茶懐石京料理を提供。これぞ食べる芸術です。

フレンチレストラン「TATERU YOSHINO（タテルヨシノ）」は、フランス料理の巨匠、吉野建シェフ監修のレストラン。吉野氏がパリで店を営んでいた当時から続く伝統的な料理技法と北海道の食材をかけ合わせた、モダン・クラシックで本格的なフランス料理を楽しめます。

旅の目的地になるホテル

ポルトムインターナショナル 北海道は、日本美術に触れて、和を五感で楽しめるミュージアムホテル。近世の日本美術好きな人にはたまらない施設であり、日本美術にあまり詳しくない人でも興味関心が湧くことは間違いありません。ホテルエントランス付近にあるカフェ・スカイライブラリーには古今の書物が多数あり、ホテル内で紹介している日本美術や文化、北海道の歴史や自然についてなど、さらに深く知る手がかりを得られます。

支配人のお話によると、このホテルに泊まるために北海道へやってきて、空港施設とホテルから一歩も外に出ることなく飛行機で帰る人も時折いるそうです。大人の休日の過ごし方として、北国の空の玄関口で和の文化に浸ってみてはいかがでしょうか。非日常感を存分に味わうことができそうです。

Words: Nobuka Kawashima
Photos:Toru Tanaka

ポルトム インターナショナル 北海道ではお客様に安心してご利用いただけますよう努めておりますが、更なる安全確保の対策として、感染拡大を防止する取り組みを行っております。
ご宿泊の際は何卒ご理解ならびにご協力を賜りますようお願い申し上げます。
感染拡大防止の取り組みについて詳しくは下記をご覧ください。
https://www.portom.jp/jp/info/116/

2021/11/22

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