長崎県の離島・五島列島は、江戸幕府による禁教令の時代もキリシタンが潜伏しながら信仰を守り、現在も美しい教会堂が点在することで「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」として2018年に世界遺産に登録されています。今回ご紹介するのは2022年8月30日、五島列島の福江島にグランドオープンした「五島リトリートray by 温故知新」。福江島のダイナミックで豊かな自然を体感できるホテルです。

五島を象徴する眺望を見晴らすデザイナーズホテル

「五島リトリートray by 温故知新」は、福江島のシンボルともいえる鬼岳（おんだけ）の南側、ゴツゴツとした黒い石が転がる鐙瀬熔岩（あぶんぜようがん）海岸に面した海沿いに建っています。

ワイルドな景観ですが、実は福江空港から車で約10分、福江港から車で約15分という好立地。
長崎の離島というと遠い印象ですが、空路もあるので、東京や大阪方面から2時間～2時間半程度と、意外と気軽に行けるのですね。

気候はどんな感じなのでしょうか。支配人の小池稔さんに伺いました。
「五島列島は南というより西に位置するので、気温は東京とあまり変わらないです。夏は暑そうなイメージがあるかもしれませんが、爽やかな風が吹いて過ごしやすいですよ」

ホテルのデザインを担当したのは、数多くのホテルや飲食店を手掛けてきた空間デザイナーの橋本夕紀夫氏。
「The view」をテーマに、五島のダイナミックな自然を館内に取り込むような仕掛けが散りばめられています。
ホテルのアプローチ部分に設置されているのは、五島の海の漣（さざなみ）を表現した水盤です。（上の写真）

エントランス前に置かれた溶岩石を使ったアートは、ホテルの土地から建設中に掘り出されたもの。福江島のシンボル・鬼岳から約5万年前に流れ出して冷え固まった石で、地元の有川喜石材店が手作業で仕上げたそうです。

降り注ぐ太陽の光と海を感じるロビー。五島の自然がホテルの中まで流れ込んできているように感じます。

ロビーの外からの眺めも絶景です。ゆったり座って過ごしたいですね。

海とつながっているような感覚を覚える客室

「五島リトリートray by 温故知新」の客室は全室オーシャンビューで露天風呂付きの26室。セミダブル、スーペリア、デラックスの3つのタイプがあり、一部の部屋はファミリー向け、ユニバーサル仕様に対応しています。
「何も遮るものがなく、窓からすぐ目の前に海が見える。このオーシャンビューを五感で感じていただきたいです」と小池支配人。

こちらは「オーシャンビュー 露天スーペリア」の客室。開放感たっぷりで、室内にいるのに海辺で横になっているような気分です。
インテリアも橋本氏のセレクトで、地域の作家によるクラフト作品が設えられています。

「オーシャンビュー 露天セミダブル」の露天風呂。波の音が聴こえてきそうですね。

新鮮な五島の魚介、地産の恵みを日本料理で

朝夕の食事は、北側の窓に鬼岳、南側の窓に海を見晴らす絶景ダイニングでいただきます。

夕食は日本料理のコース。長崎の工房「瑠璃庵」の美しいガラスの器で供されます。

料理長の髙平甲さんに、お客様にぜひ食べていただきたいと思うイチオシを伺ってみました。
「やはり魚ですね。周囲の東西南北に海が広がっているというのはここならではです」

海域によって魚の種類が違うのですね。初夏から秋にかけてはどんな魚が食べられるのでしょうか。
「イサキ、カンパチ、それからスジアラという高級魚は夏に肥えます。ゴマサバも脂がのっておいしいです。もう少し季節が進むとハガツオが出てきます。これは普通のカツオと違って柔らかくて白っぽい身で、業者さんに頼んで特別に獲っていただいています。8月後半には伊勢エビが解禁になり、ミズイカも獲れるようになりますね」
魚市場に通い、漁師さんの船にもときどき乗っているという髙平料理長。新鮮な五島の魚を、一番おいしい調理方法でいただけるのだから贅沢です。
（上の写真はメニューの一例）

こちらは希少な五島牛のグリル。海風を浴びてミネラル豊富な牧草を食べて育ったブランド黒毛和牛で、さっぱりとした味わいが特徴だそう。
肉料理では五島美豚や地鶏などのメニューも提供しています。

高平さんに、五島産の野菜や果物はどんなものがおいしいか伺ってみました。「夏はトマトですね。食べてびっくりするほど感動したのはパプリカで、みずみずしくておいしいです。あとは期間限定になりますが、温泉水で育てたマンゴーも扱っています」
米もすべて島育ちのものを使っているそうです。

川が少ない五島列島ですが、湧水はけっこうあるそうで銘酒も造られています。
「五島列島酒造の焼酎や、五島つばき蒸留所のジンなどをお出ししています」

（上の写真はメニューの一例）

21:00からはロビー横のカウンターコーナーにカクテルバーがオープンするので、夕食後もお酒を楽しむことができます。

ひときわ異彩を放つこの空間は瞑想室。ホテルの施設としては珍しいので驚きました。
しかもバーカウンターの奥にあるのですが、お酒を飲みながら瞑想するのでしょうか。
「位置的にたまたまバーの横なのですが、昼の時間帯はかなり静かなので、夜より昼に使われる方が多いですね」と小池支配人。
デザイナーの橋本氏が"祈りの島"のコンセプトのもとに設計したそうです。
素晴らしい自然に包まれるのもいいけれど、ひととき頭を空っぽにして、リフレッシュするのにいい施設です。

館内には「ray spa」も完備。五島の名産である椿を使ったオイルや化粧品、五島の塩湯美容水などを使用し、五島の自然のパワーを感じるトリートメントが受けられます。

アクティビティで五島ならではの時間を

周辺はアクティビティが豊富で、「五島リトリートray by 温故知新」では多数のメニューを紹介しています。
「人気なのはゴルフや釣り。今日いらしたお客様は『人生で一番のゴルフをしました』と喜んでいらっしゃいました。海の見える開放感抜群のコースです」と小池支配人。

「ホテルから車で5分の鬼岳は展望台がありハイキングもおすすめですが、夜はまわりに灯りがないので満天の星空が望めます。夕食後の時間帯には、星空ガイドに解説してもらって、ゆっくり空を眺めるのもいいですよ」

そのほかバラモン凧上げ体験、サイクリングツアー、サンセットクルーズ、教会堂をめぐる巡礼クルーズなど、五島ならではの楽しみが盛りだくさん。HPに紹介していないものもあるので、やってみたいことがあったらレセプションに相談するといいでしょう。

強い太陽の光、目の前に広がるコバルトブルー。
離島ならではのゆったりとした時間が心地よく流れ「少なくとも2泊、できたら3泊したい！」と思わされる別天地のホテルでした。

Words : Yuki Asakura
写真提供：五島リトリートray by 温故知新

2023/5/10

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