いまやそのワードを聞かない日は無いほど、私たちの生活に頻出する"サステナブル"という言葉。音楽家の小林武史氏率いる＜kurkku（クルック）＞は、2005年の立ち上げ時から、日本でいち早くサステナブルな活動に軸足を置いているプロジェクトであり、これまでに、オーガニックレストランやプレオーガニックコットン事業（コットン生産者が一人でも多くオーガニック農法に移行できることを目的とした、移行期間の綿の購買支援）などの取り組みで注目を集めてきました。2019年秋、彼らが新たに開業したサステナブルなファーム＆パークが＜KURKKU FIELDS（クルックフィールズ）＞。舞台として選ばれたのは、東京から車で約1時間。千葉県・木更津に広がる、自然豊かな30ヘクタールの土地でした。

すべてが「循環」している場所

ここクルックフィールズは、『FARM』『EAT』『ART』『PLAY&STAY』『NATURE』『ENERGY』の6つのコンテンツを提供し、サステナブルな未来を実現するためのアイディアが敷地の至るところに散りばめられています。ただ広いだけでなく、取り組みも多岐に渡るため、1日で全てを満喫するのは難しいかもしれません。

お客さんの目的も実にさまざま。フレッシュな水牛のチーズを買いに訪れる人もいれば、お散歩に来る人、子どもと一緒に生き物を探しに来る人も。農業体験やアート鑑賞、ピクニックも楽しめます。レストランやショップで提供している食のほとんどが敷地内で獲れた新鮮な野菜、卵、牛乳から作られ、各施設からの排水は植物や微生物の力を使ったバイオジオフィルターで浄化、そして農場のエネルギー源となっているのは一面に広がるソーラーパネル。ここではすべてが「循環」しているのです。さっそく場内を散策してみましょう。

ファーム内のソーラーパネルは、場内の電気供給を担っています。今年の春には木更津市と災害時の協定を結び、いざという時のエネルギー供給源として電源等を避難者に提供するなど、地域への支援協力にも貢献できる、頼もしい存在に。

羊舎ですくすくと育つ子ヒツジたち。ペコリーノ（羊の乳で作られるチーズ）が食べられる日も遠くなさそうです。お天気が良い週末は、ヤギや水牛のミルクから作られたジェラートを販売。ひょっとすると、ヤギやヒツジとのふれあい体験ができるかも！？

睡蓮の花が咲く美しいビオトープは、バイオジオフィルターで浄化された水が流れくる場所。メダカやゲンゴロウ、カエルたちが生息しています。週末には、生物に詳しいスタッフが「水辺の生き物観察会」を開催。（定員8組に達し次第受付終了。土日開催・雨天中止）

野菜、チーズ、ジビエ、すべてを新鮮なまま食す

敷地内で食べられるフードのほとんどは、メイド・イン・クルックフィールズ。ベーカリー、シャルキュトリー（ソーセージやハムなどの食肉加工品やそのお店のこと）、ダイニングで、新鮮な食材に出会えます。
広い鶏舎でのびのびと育った平飼い鶏の卵は、市場に出回っている卵が黄色なのに対して、美しいレモンイエローが特徴。臭みのないピュアな味です。フレッシュな平飼い鶏の卵かけご飯は、宿泊時の朝食で選べるほか、ダイニングやセンターハウスカフェでも注文可。平飼い鶏の卵とブラウンスイス種の牛からとれる牛乳をたっぷり使ったシフォンケーキは、ユニークなフォルムのショップ「シフォン」で提供しています。

ベーカリーには、厳選した国産の小麦と場内の畑で収穫した小麦「ゆめかおり」を使用した焼き立てのパンがずらり。農場で採れる野菜・ハーブ・花・果実と、チーズ作りで生み出される水牛のホエーで酵母を起こし、じっくり焼かれています。ベーシックな食パン、バゲット、クロワッサンから、カレーパンやたまごサンドといった調理パン、旬の野菜や果物を使った期間限定のパンまで。朝はパンを焼くいい香りが場内に広がります。

ベーカリーに併設されたショップには、毎日獲れたての新鮮な野菜が並びます。今日のおすすめはオーガニックファームの畑で獲れたニンジンと、キャロットジュース。販売されている野菜はもちろん、すべてオーガニックです。

お食事が楽しめるダイニングスペースは、アーチ型の大きな窓が目印。小高い場所に建てられたダイニングの窓からは、敷地内に広がる美しい自然やアートが一望できます。

農場の食材をたっぷり使い、大きな薪窯で焼き上げるピザは言わずもがな絶品です。水牛モッツァレッラチーズのマルゲリータや季節の野菜のピザなど、獲れたての食材にこだわったメニューばかり。

さらにクルックフィールズの野菜を思い切り堪能したいなら、農場ランチプレートを。日替わりの野菜、ハーブ、卵、パンなどをミックスした、欲張りなプレートです。
大人気のシャルキュトリーのテイクアウトも見逃せません。豚や猪のソーセージ、テリーヌ、ジャーキーはワインとの相性もぴったり。噛むたびに旨み成分が広がり、ついついお酒がすすんでしまいます。毎日売り切れ必至の水牛モッツァレッラチーズもこちらで購入可能。

シャルキュティエ（食肉加工職人のこと）は、木更津の人気フレンチでオーナーシェフを務めていた岡田修さん。害獣とされる猪や鹿が人の都合で駆除処理されるだけではなく、きちんと森の恵みとして最後まで美味しくいただけるよう、自ら狩猟・食肉免許を取得し、食肉加工まで手掛けていると聞いて、驚きました。捕獲してから1時間以内に、自社の食肉処理場「オーガニックブリッジ」の大型冷蔵庫内で素早く捌（さば）く。この作業を一貫して行っているため、より新鮮な鹿や猪のジビエを安心して食べることができるのです。シャルキュトリーの店頭に立つ岡田さんのパートナー、綾乃さんはソムリエでもあります。オーガニックワインも併せて購入できるので、おすすめのペアリングを聞いてみてはいかがでしょう？

タイニーハウスでミニマルな宿泊体験を

宿泊は、タイニーハウスビレッジでお楽しみください。米ポートランド発祥の「タイニーハウス」は、"量より質"をコンセプトに、シンプルでミニマルなライフスタイルを実現する居住空間のことを指し、最近は映画の題材にもなり注目を集めています。

クルックフィールズには現在6つのタイニーハウスがあり、定員は2〜4名。すべて間取りや家具が異なります。古材を再利用した遊び心あふれるデザインは、まるで大人の秘密基地のよう。春〜秋は新鮮な食材を堪能できるBBQディナーもセットになった宿泊プランが中心となり、朝食は卵かけご飯かサンドイッチを選べます。事前予約で7:00〜農作業体験の申し込みも可能。クルックフィールズならではのファームステイが楽しめますね。

バーカウンター、60年代のオーディオ機器、書籍が並ぶカフェバーラウンジは、22:00まで開いています。美味しいお酒と素敵な音楽で、ほろ酔いでゆったりとした時間を過ごせます。

歩けば出会う、自然の中のアート作品

日本を代表する芸術家・草間彌生氏による赤地に白い水玉のオブジェ「新たなる空間への道標」や、フランスの現代アート作家、ファブリス・イベールが手掛けた人型の噴水「べシーヌの人」。自然の中を散策していると現れるユニークなアート作品たちは、宮城県石巻市で開催された「Reborn-Art Festival」で展示していた作品を、現地からはるばる運んできたのだとか。食や自然を求めてやって来たお客さんたちが、不意にアート作品に触れることで、より感性を刺激する体験になれば、という小林氏の想いで場内の中にアートを取り入れたそう。

野生の森の中に佇む重厚な黒の筒状オブジェは、増田セバスチャン氏の作品「ぽっかりあいた穴の秘密」。いざ中に入って見上げると、色とりどりのファンタジーな世界が広がっています。

大自然の中で"いのちのてざわり"を感じる体験を

スタッフの解説を聞きながら敷地内を巡る＜KURKKU FIELDS TOUR（クルックフィールズツアー）＞も定期的に開催されています（HPから要予約）。クルックフィールズのコンセプトや、サステナブルな仕組み、環境と調和したアート作品のことを深く知れるだけでなく、ツアー参加者のみ、草間彌生作品「無限の鏡の間-心の中の幻」を観賞できるチャンスがあります。今回取材にご協力いただいた広報の菅野さんは、もともとクルックフィールズツアーのお客さんだったそうです。

「子どもが生まれてから、どんな環境でも『生きることに強くありたい』と思うようになり、7年前に家族で自然豊かな木更津に移住してきました。ここがまだオープンする前、子どもと一緒にクルックフィールズツアーに参加したんです。その時に知ったクルックフィールズのコンセプトや、ここで働くスタッフの皆さんに惹かれ、私もここで働きたい！と感じました。元は普通の主婦だったので、牛や鶏の種類を覚えるところから。農業や酪農、環境デザインのプロフェッショナルに囲まれて働くようになって、毎日が新しい発見の連続です。自分が食べるものも、どんな場所でどうやって作られているのか、そういったことも考えながら選ぶようになりました。都会で忙しく働く人にもぜひクルックフィールズにお越しいただき、循環を感じでいただきたいなと思っています」（広報菅野さん）

普段当たり前に使っている電気や水、食べている卵や野菜がどういう仕組みで届いているのか。"いのちのてざわり"というキーワードで構成されたクルックフィールズの世界に一歩踏み込めば、わかりやすく理解することができます。これからの季節は、青々とした緑と水の景色が鮮やかで、動物や虫たちの動きも活発。つねに五感を刺激されながら、楽しく、おいしく、心地よく"サステナブル"を感じられる体験が待っているでしょう。

Words: Satoko Muroga　Photos: Shota Kono

※クルックフィールズで取り組んでいるコロナウイルス対策

●施設内、一定時間おきにアルコール消毒等による除菌を徹底します。
●客室清掃時は常に換気を行い、一層まめな清掃、消毒、除菌を徹底します。
●毎日の検温、手洗い、うがいを遵守し、スタッフの健康管理を徹底します。(37.5℃以上ある場合は出勤停止)
●全スタッフのマスク着用を徹底いたします。(清掃スタッフは清掃着、手袋、を必ず着用。清掃に使用したものは洗濯、消毒を徹底いたします)
●お客さまへ、可能な限り三密（密接、密着、密集）を避けた対応をいたします。
●各部屋には除菌スプレーを設置しておりますので必ずご利用ください。
●大変恐縮ですがコロナ禍でございますのでお客様同士の接触は避けてください。
●ご滞在中に具合が悪くなった場合、スタッフまでお知らせください。（体調不良等が発覚した場合、ご宿泊をご遠慮いただきます）

2021/5/24

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