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2025.02.19
高齢の親の認知症対策...家族の財産を守る「家族信託」の活用例

高齢の親が認知症になると、財産を動かせない・動かしづらくなります。その対策のひとつとして、最近では「家族信託」が多く用いられるようになりました。家族信託とは、その名の通り、「家族(親族)の誰かに、財産の管理・処分等を信じて託す」方法のこと。具体的に、どのような使い方・メリットがあるのでしょうか。

●父の逝去にショックを受けた母に、認知症の兆候が...

家族信託の活用例として、実際に筆者が扱った資産家のご家庭のケースを見てみましょう。

ある80代の男性が亡くなりました。相続人は同い年の妻と40代の長男・長女の3名で、長男長女はすでに独立しており、家族仲は良好です。相続財産には不動産があり、東京郊外の一戸建ての自宅、自宅近くの投資用の収益アパート1棟、東京23区内の区分マンション1室の3つの物件をお持ちでした。

長男・長女から相談を受け、次のような状況やご要望をうかがいました。

・母は父を亡くしてから急に老け込み、認知症の初期症状がみられはじめた。

・自宅は将来売却し、母が老人ホームに入居するときの費用に充てたい。

・母の相続時に、自宅の売却代金の一部が残っていた場合、あるいは自宅が売却できずに残っていた場合は、長男と長女でこれらを均等に相続したい。

・収益アパートは、母に相続させて、家賃収入を母の生活費に充てたいが、高齢な母に不動産管理は難しいだろう。

・収益アパートは、長男が将来母から相続したい。

・区分マンションは、長女が今回父から相続したい。

・今回の父の相続のタイミングで、これらへの手当をすべてすませたい。

財産の管理・処分等に係る第三者との取引は、持ち主本人が行う必要があるため、認知症になると行えません。しかし、これを本人に代わって家族の誰かに行ってもらうのが「家族信託」です。

家族信託が一般的になるまで、この相談のようなケースでは、父の相続手続において、自宅とアパートは母が、区分マンションは長女が相続するしかありませんでした。この方法では、将来自宅を売却する時点で母がもし認知症になっていたら、母は単独で売却できないため、成年後見制度を利用しなければならず、売却手続が非常に面倒になります。

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●家族信託=「所有権」という概念を〈所有〉と〈管理〉に分離する

しかし、家族信託を使えばこのようなケースに対応できます。信託契約は、「受託者」が「委託者」のために財産を管理する契約です。このように、信託契約には次の3者が登場します。

 「委託者」...... 自分の財産を預ける人
 「受託者」...... その財産を預かって管理、ときには処分を行う義務がある人
 「受益者」...... その財産から生まれる経済的な利益を受け取る権利がある人
         受託者に一定の指示を出す権利もある

1人で2役兼ねることもできるので、委託者 が、財産の「管理だけ」を他人に任せたい場合は、「委託者」と「受益者」を兼ねることになります。

家族信託は、信託契約の一形態であり、これら3者全てを家族が行います。当事者に家族以外の他人が入らないので、他の信託契約に比べて手軽に行える点が特長です。
今回のケースでは、「受託者」(子など)が「委託者」(母)のために財産を管理するという契約を結ぶことになります。

財産の管理には、自宅や賃貸物件のメンテナンスや収支の管理のほか、その財産の処分(売却)なども含まれます。

家族信託の契約形態は、平たくいえば、「所有権」という1つの概念を、「所有」と「管理」の2つに分けるものといえます。

今回のケースでは、母(委託者)の自宅不動産と収益アパートについて、長男(受託者)と信託契約を取り交わすことになりました。この場合、これらの不動産の「所有者」はあくまでも母のままですが、管理や売却するときの権限は、長男に生じます。 信託契約後、それぞれの不動産登記簿に信託財産である旨やこれらの関係者が記載されます。この登記により、売買契約をするにあたっての当事者が長男であると第三者に公示されます。

家族信託は、銀行預金などの金融資産にも活用できますが、最大限に効果が発揮されるのは、登記簿に信託の登記がされる不動産でしょう。

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●遺言書の代用として信託を活用する方法も

長男が、信託財産である自宅や収益アパートを売却した場合の売却代金は、信託財産の「不動産」が「金銭」に置き換わったものにすぎませんので、その金銭も「信託財産」となります。この金銭の管理権は長男に残り、自分の口座とは別の専用口座を作って管理し、老人ホーム入居費用等に充てるなど、母のためにのみ使っていくことになります。

では、もし母が不動産を売却する前に亡くなった場合はどうなるでしょうか。

信託契約はこのような場合も想定して定めておきます。今回のケースでは、信託の終了時(母の死亡によって信託が終了します)に不動産が残っていた場合は、次のように長男長女で分けるよう定めました。

・自宅不動産は、長男と長女が各2分の1

・収益アパートは、長男が100%

このように定めることで、「信託の終了(母の死亡)」によって、それぞれの不動産の名義を長男長女それぞれに移すことができます。

このように家族信託は、遺言書に代わる効果も期待できます。もし、不動産を売却していたとしても、それぞれの不動産の売却代金を上記の割合で分けることになるためです。

ただし、家族信託で遺言の代用としての効果が生じるのは、あくまで「信託財産とした財産についてのみ」です。当然、信託財産以外の財産には、信託契約の効力が及びません。このため家族信託の契約書は、信託財産以外の財産について手当するために、遺言書(公正証書遺言)との組み合わせで作成することも多くあります。

家族信託でカバーできないものに、包括的な財産管理や、身上監護権(日々の生活の維持に関する事や、医療行為の同意、老人施設などの入退所契約など)があります。これらは、任意後見契約を結ぶことでカバーできます。なお、任意後見契約は、公正証書で取り交わす必要があります。

●信託におけるその他の設定

母が、「不動産の売却実行を、長男一人だけに判断させるのは不安だ」と考える場合には、受益者(母、母は委託者であり受益者も兼ねている)の同意がなければ売却できないように定めることができます。

ただし、母が認知症になると同意できなくなるので、「受益者代理人」をおいて備えます。
「受益者代理人」には、受益者としての権利を行使する一切の権限が与えられます。
この「受益者代理人」を選定しておくことで、本来受益者である母が行うべき売却に係る同意を、母とは別の家族に行わせることができるのです。

「受益者代理人」をおくと、信託財産の売却に係る登記を行う際に、受益者代理人の同意書が証明書類として求められます。煩わしいように思えますが、これによって、受益者代理人の同意を得ずに、長男が独断で売却することを防げるのです。

今回は、長女を受益者代理人としました。信託行為で重要となる不動産の処分の際に、長女も関与させることで、信託の管理をより確かなものにしたわけです。

こうした家族信託や任意後見契約といった認知症対策は、判断能力があるうちに行う必要があり、認知症が発症してからでは手遅れになってしまいます。同様に、その他の相続対策も、早め早めの対処や専門家への相談が肝心であることは、いうまでもありません。

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近藤 崇氏プロフィール
司法書士法人近藤事務所 代表司法書士。取扱い業務は相続全般、ベンチャー企業の商業登記法務など。相続分野では「孤独死」や「独居死」などで、空き家となってしまう不動産の取扱いが年々増加している事から「孤独死110番」を開設し、相談にあたっている。

Words:近藤 崇(司法書士法人 近藤事務所)、幻冬舎ゴールドオンライン
Illustration:オノデラコージ

2023/8/20

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