投資の神、と呼ばれる存在がいます。投資によって巨額の富を築き、莫大な資産を運用し続けるレジェンド。彼らをインベスター・ゴッドと呼びたいと思います。彼らの手法をそのまま再現できれば「億り人」になれるはずですが、事はそんなに簡単ではありません。彼らが残した言葉から投資哲学を知り、自分なりの投資スタイルを考えるきっかけにしていただけたらと思います。なお、本シリーズは、インベスター・ゴッドたちの投資スタイルをおすすめするものではありません。あくまでも投資は自己責任でお願いいたします。グッドラック！

"ウォール街に、あるいは株式投資・投機に新しいものは何もない"ジェシー・リバモア

今回のインベスター・ゴッドは「ウォール街のグレートベア」こと、ジェシー・リバモア (1877年～1940年)。1929年の暗黒の木曜日で巨額の富を得た伝説の投資家です。「投資家というより投機家」という批評の多いリバモアの投資スタイルをおすすめするものではありません。しかし、40年ぶりの高インフレで金融市場も動きが大きい今年のような時にこそ知っておきたい、リバモアの数々の名言をご紹介したいと思います。

1929年 暗黒の木曜日で名を上げた伝説の投資家

世界大恐慌のきっかけとなった1929年10月24日の「暗黒の木曜日」。ブラックサーズデーと呼ばれ、この日の株価暴落をきっかけに1929年10月28日に1日の下落率が約12.8%となりました。1929年9月の高値から1932年にかけて最大8割の下落となった、世界恐慌の初日です。

リバモアは、この大暴落で空売り（※）を仕掛け、巨額の利益を上げました。この取引で得た彼の利益は、当時で1億ドルを超え、「ウォール街のグレートベア」と呼ばれるきっかけになりました。ちなみに現在の日本円換算での価値では7,000億円相当になるそうです。実績的にも間違いなく伝説の投資家といえます。

さて、私が、リバモアの影響を受けるようになったのは、リーマン・ショックの頃です。ちょうど海外で資産運用の仕事に就いているときでした。実は、リバモアの存在は、リーマン・ショックの数年前から知っていたのですが、残念ながら彼の教えを自分のものにできていないままリーマン・ショックを迎えてしまいました。

リーマン・ショックとは、海外ではグローバル・ファイナンシャル・クライシスと呼ばれるように、まさにクライシス（危機・恐慌）そのものでした。株や不動産、債券なども全てが凄まじい暴落となり、私も含め多くの金融関係者が無傷で逃れることは奇跡といえる状況でした。ただ、もしもリバモアがこのリーマン・ショック時に生きていたら、難を逃れるどころか巨額の利益を得ていたのではないかと思っています。

このような思いもあり、この暴落以降、彼の本を繰り返し読むことになりました。その甲斐もあり、その後の数々の困難はどうにか上手に乗り越えられたのではないかと思っています。そこで、彼の素晴らしい考え方と名言をぜひ皆さまにご紹介させていただきたいと思います。

※「空売り」とは、証券会社などから株式を借り、借りた株式を売って一定期間後に買い戻す取引のこと。通常の現物取引とは逆に、株価が下落した場合に利益が出る。

人間の本性が変わらない限り過去は繰り返す

まずは、「ウォール街に、あるいは株式投資・投機に新しいものは何もない。ここで過去に起こったことは、これからもいく度となく繰り返されるだろう。この繰り返しも、人間の本性が変わらないからだ」というものです。このメッセージは、リバモアが一番伝えたかったことだと思っています。

簡単に言えば、人間が本性をむき出しにしながら株式を取引している限り、今後も必ず大暴落、大暴騰が繰り返されるというものです。つまり、人間が強欲だからそうなるということですね。

この言葉を拡大解釈すると、投資の世界では、「今回は今までと違うということはなく、歴史は繰り返される」ということだと思います。

人間の本性は強欲であるため、バブルのたびに、この上昇は永遠に続くのではと思い込みがちです。I Tバブル、リーマン・ショックもその一例です。当時、一部の市場関係者は、「株価が異常に上昇している」「P E Rが100倍はあまりにも評価が高すぎる」「あり得ない」と警告を発していました。
一方で、多くの市場関係者の間では「今回は今までと違う」「テクノロジーの進化は今までの評価方法では評価できない」「指数関数的に成長しているので問題ない」などという意見が多数を占め株価は大幅上昇となりました。

この自分を正当化する考えこそが「人間の本性」によるものです。そして、人間は本性を変えることができません。だからこそ、時間の経過とともに前のバブル崩壊を忘れ、再び楽観的となり、バブルを自ら作り上げて崩壊させることを繰り返してきました。結局のところ、「株価が一方的に上昇し続けることはない」ということです。

数ある情報から真実を見極める力

さて、これだけでも十分に得るものが大きいリバモアの名言ですが、実は、この名言には、続きがあります。それは、「人間の知性の邪魔をするのはつねに、人間の情報であり情動である。私は以上のことを確信する」というものです。

投資においては、数多くある情報が投資家の知性を破壊し、その破壊を避けるために、数多くの情報から「真実」をだけを見出し、「嘘」や「ノイズ」を排除することの重要性を説いています。なぜ、彼はこのような言葉を残したのでしょうか。

ここで少し種明かしをしたいと思います。リバモアは、幾度も破産を経験し、その度に復活をとげて巨額の資産を築き上げました。しかし、その栄光の裏で、破産した回数は4回、そして、最終的には自ら命を絶つという波乱万丈の人生を送っています。

そんなリバモアは、ある時、綿花相場の超大物パーシー・トーマスと出会い、彼の話にほれ込んでしまい、自分でその情報の「真実」を突き止めることなく、聞いた情報をそのままに綿の先物取引に多額の資金をつぎこみ、大損失を出しました。

リバモアはこの失敗を通じて、「情報はすべて危険である。情報はあらゆる形態を装い、採用をもちかける。自分の知る世界に専念せよ。投資家の最大の敵は自分の中にいる。人間の本性として、人は希望と恐れとは無縁ではいられない。相場に勝つ必要はない、勝つべき相手は自分自身だ」と後に語っています。
このように、彼は、人の情報を信じて破産に追い込まれた経験があり、だからこそ情報の危険性と判断を狂わすノイズを排除する大事さを伝えたかったのだと思います。

個人投資家が伝説の投資家から学ぶべきこと

そんな彼が復活ために定めた絶対ルールがあります。それは、「マイ・ルールを定め、それを貫く鉄の意志を持ち続ける」こと、そして、「情報は自分の頭で必ず判断する」というものでした。

リバモアですら、感情や本性に流されて失敗をしました。つまり、株式市場においては本性を完全に押し殺して完璧な判断をできる人間は存在しないということです。だからこそ、マイ・ルールという「心に鎧」をまとうことで本性を抑えることを目指していたのだと思います。

また、投資の世界では極端なムードが形成されがちです。しかし、そのような雰囲気に流されないように情報は必ず自分で判断することを心がけていました。

このようなことから、個人投資家が、リバモアから学ぶべきことは、「自分に適したマイ・ルールを定め」、SNSなどの二次情報・三次情報に流されることなく「自分で情報を判断」することではないかと思います。私は、これを守っている個人投資家が資産を築いてきたことを数多く目撃してきました。
だからこそ、個人投資家の皆さんにも、確信を持ってこの伝説の投資家の金言を活用してほしいと思います。

プロフィール
ファミリーオフィスドットコム株式会社
代表取締役 渋谷豊

邦銀入行後、大学院を経て、米銀CITI BANK.N.A、仏銀ソシエテ・ジェネラル信託銀行、仏銀SOCIETE GENERAL Bank＆Trust Singapore にてプライベートバンキング業務及びアセットマネジメント業務に従事。7年間の海外勤務を経て日本に帰国し上場企業系列の投資顧問会社代表に就任。富裕層、上場企業等への資産管理会社に対してファミリーオフィスサービス、資産運用アドバイスを提供。資産管理・運用業に20年以上従事。
2019年、資産管理・運用にファミリーオフィス機能が広く活用されることを目的に当社設立。
慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 修了

Words: 渋谷豊（ファミリーオフィスドットコム株式会社）
Illustration：Takayuki Ino
2022/11/9

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