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2023.02.28
持続可能な未来を選ぶ〈ESG投資〉

〈ESG投資〉のポテンシャルは?

ESGとは環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字を取った言葉です。気候変動や人権問題など社会の直面するさまざまな課題を考慮した持続的な企業価値の向上を目指す経営手法を指します。

ESGのマネジメントに長けている企業へ投資を行うことが、ESG投資です。知らない人にとっては、少し理想論のような響きに聞こえるかもしれません。しかしESG投資は「高いリターンが期待できる新しい投資手法といわれています」。こう話すのは、経営戦略・金融コンサルタントやESG投資、サステナビリティ経営の専門家でもある、株式会社ニューラル代表取締役CEO/信州大学特任教授の夫馬(ふま)賢治さんです。

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───なぜ今、ESG投資なのでしょうか?

「ESGや、それと合わせて紹介されることの多いSDGs(持続可能な開発目標)という言葉が最近多く聞かれるようになったのは、社会的な背景によるものです。今後は人口がさらに増大し、資源がますます枯渇していきます。環境破壊の問題も無視できません。デジタル化を含め、事業環境が大きく変わっていくことは自明です。

ESGは、『企業の存在は社会の公器として社会的責任を果たすものだ』と言われがちですが、実際にはそうではありません。ESGは、企業の収益を長期的に成長させていくことを目的としています。従来の考え方と違うのは、環境や社会的な市場環境の変化が企業の成長性に著しい影響を与えるという認識が広がったことにあります。長期的な市場環境の変化に対応できる企業を、見定めていこうという手法がESG投資です。

ESG投資という手法は、慈善活動家ではなく、プロの機関投資家によって確立されてきました。機関投資家が『リターンを増やすためにESG投資は有効だよね』と考えているのが、重要なポイントです。なかにはESG投資でなければ、収益を最大化できないとまで考える機関投資家も出てきています」

長期投資によるリターンを期待できるのがESG投資

───ESG投資を始める上で、知っておいたほうがいい基本的な知識はありますか?

「ESG投資を考える上で、まずは、その前提となる『長期投資』という概念を押さえることが大事です。なぜなら長期投資のほうが、リターンが高い場合が多いという結果がさまざまなデータから出ているからです。投資と聞くと、トレーダーがチャート画面を睨みながら売買を繰り返すデイトレードのような様子を思い浮かべる人もいるかもしれません。しかし、そのように頻繁に売買する短期投資の方法は、日中働いているほとんどの方にとっては難しい。また、投資信託(ファンド)で投資したとしても、コロコロとファンドを乗り換えてしまうと手数料ばかりがかかり、その場合もリターンが目減りしてしまいます。

そうではなく、長期間を見据えて投資活動を行うスタイルが長期投資です。『長期』の目安は、10年以上ですね。プロの機関投資家では、20年、30年という長いスパンで投資を行っていたりします。20年、30年と待てず早期資産形成し若いうちにFIREを達成したい方には向かないかもしれません。

もっと長期で見ると、世界の人口・GDPは産業革命以降ずっと右肩上がりです。もちろん短期間に区切って見ればリーマンショック時のような世界経済・株価の上下動があるのですが、人はそのたびに一喜一憂して、本当は売らないほうがいいタイミングでも株を売ってしまう。そんな弱気の意思決定を避ける意味でも、長期保有・長期投資がおすすめです。

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『リターンを増やす上では長期投資が大事』という概念の土台の上に、ESG投資はあります。私自身もさまざまな投資を行っていますが、短期で売買することはほとんどありません。少なくとも3〜4年は動かさないことがざらです」

世界的な産業構造の変化がESG投資に追い風

───そもそも、ESG投資は本当に利益が出るのでしょうか?

「確実に儲かるとは申し上げられないのが投資の世界です。長期投資は、基本的には余剰資金で行うことが肝要です。その上で、長期投資のスタイルでも、ESG投資が今後も伸びていくと私が考える根拠をいくつか挙げます。

ESG投資は、欧米の機関投資家が主導して、2010年前後からルール形成などを牽引してきました。その頃と2023年現在で違う点は、インドやASEAN、中南米などの新興国でもESG投資の重要性が理解され始めたことにあります。新興国の機関投資家でもESG投資が始まったことで、市場の動きに敏感な新興国の企業もすでにESGを意識した経営に舵を切っています。タイなどのセミナーに参加すると分かるのですが、ものすごい勢いを感じます。

産業構造の変化が起こっている原因は主に、産業のカーボンニュートラル化を目指すグリーンエコノミーへのシフトと、デジタル変革が大きな要因です。世界中で気候変動に伴う具体的な災害や事象が頻発してきたことで、環境への意識の高まりを見せている点も見逃せないでしょう。また、ヨーロッパでの戦争を受けて、長期的に見て化石燃料に依存しているのはマズいと考える動きが出てきています。インドなどの新興国でもそれは同じです。

2022年はコロナ禍を経て、投資環境の悪化というような逆風のニュースが日本では多く流れました。ですが、実態としては、業界のデータを俯瞰すると、非ESGファンドから資金が逃げ、ESGファンドに人気が集まっています。

このように、長期的な産業構造の変化に着目しても、ESG投資には追い風が吹いていると言えるでしょう。ESGに注力していない企業は、グローバルスタンダードになれない時代に突入しているようです」

初心者におすすめなのは個別銘柄よりもパッシブ投資

───従来の株式投資などと比べて、ESG投資は何が違うのでしょうか?

「過去の実績志向なのか、未来志向なのかの違いがあります。ESG投資は、これまでの株式投資と比べて、投資家の銘柄選定の方法に違いがあります。一般的な株式投資では、投資したい企業の過去の実績に着目し、ROE(自己資本利益率)、PER(株価収益率)などを見ます。そういった財務実績を計算して、適正株価の水準に対して現在の株価が割高なのか割安なのかを判断した上で売買取引を行います。

こうして過去の実績を判断するのが株式投資の一般的なセオリーですが、ESG投資ではそれに加えて、『未来の可能性』を判断します。たとえ、今まで大きな売上を上げていない企業でも、環境や社会課題を起因とする産業構造の変化が追い風となると判断されれば、投資資金が集まるのです」

───具体的には、ESG投資はどのように行うのでしょうか?

「ESG投資に限らず投資を始める段階ではまず、投資信託やETF(上場投資信託)、インデックスファンドなどのように、分散されて銘柄が選ばれているファンドを通じて投資を行うのか、企業を1社ずつ選び個別銘柄に投資するのかの2択があります。詳細は割愛しますが、前者が『株や債券の詰め合わせ』、後者が『株や債券のバラ売り』のようなものとイメージしてください。投資初心者におすすめしたいのは、やはり、詰め合わせのほうです。企業の未来の長期的な成長性を自分自身で判断していくのは相当の目利きが必要です。一方、詰め合わせはプロがある程度の目利きをした上で、分散投資をしているので、始めやすいです。

中でもいちばん始めやすいのは、ESGを加味したパッシブ型のファンドではないでしょうか。パッシブ型とは、日経平均株価やS&P500などの代表的な指数に連動した運用成果を目指す投資方法です。パッシブ型のファンドはインデックスファンドと呼ばれています。

ESG志向のインデックスファンドはたくさんあります。もちろん、どのファンドを選ぶかは、ある程度の学習と目利きが必要ですが、目論見書を読めば、有名な機関投資家が活用しているインデックスファンドを見つけることもできます。ご自身に最適なファンドを探してみてください」

どのように投資を始めるにしても、ESG投資はすでに世界のスタンダードとして組み込まれているようです。ESG投資をきっかけに、世界の動きを知るのもいいかもしれませんね。

夫馬 賢治(ふま・けんじ)

株式会社ニューラル代表取締役CEO/信州大学特任教授
サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリー会社を2013年に創業し現職。東証プライム上場企業や大手金融機関をクライアントに持つ。スタートアップ企業やベンチャーキャピタルの顧問も多数務める。政府のESG関連委員会の有識者委員も数多く兼任。

著書『ネイチャー資本主義』(PHP新書)『データでわかる 2030年 地球のすがた』(日本経済新聞出版)、『ESG思考』(講談社+α新書)他。世界銀行や国連大学等を含め、ESG投資、サステナビリティ経営、気候変動金融リスクに関する全国での講演や、テレビ、ラジオ、新聞等で解説も担当。ニュースサイト「Sustainable Japan」編集長。ハーバード大学大学院リベラルアーツ(サステナビリティ専攻)修士課程修了。サンダーバードグローバル経営大学院MBA課程修了。東京大学教養学部(国際関係論専攻)卒。

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Words:Yuichi Yamagishi
2023/1/24

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