日本でもひと昔前は、醤油も砂糖も豆も量り売りがごく当たり前でした。効率化を追求する現代で影を潜めてしまった量り売りですが、SDGsの意識が高まる中で、必要なものを必要な分だけ買うというスタイルが見直されつつあります。そんな時代の要請を背景に、2021年7月31日にオープンしたのが「斗々屋 京都本店」。日本初のゼロ・ウェイスト（ゴミを出さない）を掲げる、量り売りのスーパーマーケットです。

地球に負荷をかけない"モノ"と"コト"を提案

環境・資源への負荷を未来に先送りしない「地球一個分の暮らし」をテーマに、持続可能な暮らし方のきっかけとなるモノとコトを提案する同店。東京で先行的に開業したモデルショップ「nue（ニュ） by Totoya」で得たノウハウを活かしながら、スーパーにレストランとキッチンを併設することで、ゴミや食品ロスを出さない仕組みを構築しているのも特徴です。「nue by Totoya」と比較すると、京都本店の面積は約４倍、品揃えは200品目から700品目へと規模を拡大。クラウドファンディングによって国内外から調達された支援金も、その資金の一部にあてられました。

インダストリアル風のシンプルな店内は、古材を利用し、将来的に分解再利用できるよう設計されています。豊かな色彩で目を奪うのは、多種多様な量り売り商品の入ったドイツ製ディスペンサー。ガラスとステンレスと木材で作られた、世界初のプラスチックフリー量り売り専用什器Glasbinです。これも「最終的に使わなくなった後まで責任を持てる、リサイクルできるものを」と、「使う責任」を考えてセレクトされたものです。

「取り扱う商品のキーワードは"ゼロ・ウェイスト""オーガニック""フェアトレード"。必ずしも有機JAS認証を受けていなくても、オーガニックの生産方法でちゃんと作っておられる小さい農家さんのものも扱うようにしています」と話すのは広報のノイハウス萌菜さん。ゴミを極力出さないよう配慮して仕入れたもの、地球環境や生産者の健康を害さないもの、適正な価格で取引されたもの、という基準は一見厳しいようにも思われますが、店に並ぶのは、生鮮品や乾物、麺類、調味料などの食品はもちろん、洗剤や化粧品といった日用品まで充実したラインナップ。しかも、繰り返し使えるステンレス製のストローや布製のショッピングバッグなどは、どれもおしゃれでセンスがよく「使ってみたい！」と思わせるものばかりです。

スマート＆楽しい。最新鋭の計量システム

食品は全て個包装なしの量り売りで、空き瓶などの容器を持参し、自分で必要な分だけを量って購入します。従来通りの方法で重さを量っても良いのですが、容器の重さを差し引きするのが少し面倒。そこで導入されているのが、老舗の秤メーカー・寺岡精工が開発した独自の計量システムです。

「まず容器の重さだけを量るとRFID（電子タグ）ラベルが出てくるので、それを貼って欲しい商品を入れて計量します。すると自動的に容器の重さが引かれた価格を算出できるようになっています」。ラベルは水洗いにも耐えるので、同じ容器を使い続ければ２回目以降の買い物はさらに楽になる仕組みです。

実際に量り売りを体験してみました。RFID（電子タグ）ラベルを貼った容器を用意して、お目当ての商品を取り出すために蓋を開閉すると、モーションセンサーが反応して電子秤に商品名がリストとして表示されます。欲しい分量を入れた容器を秤に乗せ、買いたい商品名を選ぶと、今度は値札シールが出てくるので、それを容器に貼れば完了。驚くほど簡単でスピーディー、そして楽しい！ 自分だけのミックスナッツを作ろう、半端なスパイスが余りそうで手が出せなかったスパイスカレーにも挑戦したい......と夢が膨らみます。

デポジット制でRFID（電子タグ）ラベルのついた容器の貸し出し（ガラス瓶150円〜。後日返却すると返金される）も行っているので、容器を持って行かなくても買い物が可能。また何度でも使える瓶やステンレス容器、コットンバッグなどの販売も行っているので、それを購入して使うこともできます。

スタッフのおすすめは、ドイツ・ベルリンのメーカーが手掛ける「ECO Brotbox」。鋼産業が盛んなインドでフェアな労働条件のもとで生産された、ステンレス製のボックスです。スマートなデザインと、ゴムパッキンを使用することなく密閉できる機能性を備えているため、おかずを保存したりおやつや果物を持ち歩いたりと、ふだんの生活の中でも大活躍してくれる優れもの。ステンレス素材だから煮沸消毒も可能です。同店では、オーガニック大豆で作った納豆もこのボックスの中に入れて販売しています。

量り売り、ゼロ・ウェイストがごく"ふつう"な社会に

店内には、彩り豊かでヘルシーなお惣菜がずらりと並ぶショーケースも。スーパーマーケットで扱う食材を鮮度が落ちる前に調理したもので、こちらも好きな量だけ買うことができます。また店舗奥のレストランは、昼はランチを提供し、夜はバルとしてお酒とともに食事ができる空間。コロナの影響で、現在のメニューはお惣菜が中心ですが、ゆくゆくはシェフが自由な発想でその日にある食材を使った料理を提供する予定とか。余った食材を真空で瓶詰めにして保存するキッチンを運営することで、店舗全体での食品ロスゼロを実現しているのです。

「ここを"特別なお店"にはしたくないんです。私たちの目標は、量り売りを世の中に広めること。環境問題に特に興味のない人にも気軽に足を運んでもらって、量り売りの便利さや楽しさを身近に感じていただきたいです」とノイハウスさん。

実際に買い物体験をしてみても、大量の買い物をしたにも関わらず、帰宅後全くゴミがなかったことに改めて驚かされました。物を買ったらゴミが出る......そんな"当たり前"に疑問を持ち、小さくても行動することがサステナブルな暮らしへの初めの一歩です。

Words：Yuko Miwa
画像提供：斗々屋

2021/11/22

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