寒い冬でも活力のある女性は「発酵温浴」を習慣にしているかもしれません。
発酵温浴とは、電気やガスを一切使わず、ヒノキのおがくずや米ぬかなど自然由来の素材から生れる発酵熱で体を温める温浴法です。たった15〜20分ほどの入浴で、ヒノキの香りに包まれて森林浴気分を味わえると人気です。冷えや肌荒れ、生理痛などに悩む女性が体質改善を期待して訪れることも多いとか。

そんな発酵温浴を都会で気軽に楽しめるスパ「発酵温浴nifu」を体験してみました。

扉を開ければヒノキがふわり。山奥の小さな旅館のような空間

日没後、厳しい冬の寒さとは裏腹に熱気を増す新宿三丁目の飲食店街。その中にお店の入り口がありました。

提灯が照らす先の格子戸をカラカラと開け、エントランスへ。漂う上品なヒノキの香りと温浴施設特有の湿っぽい香りが「仕事モード」を一瞬でオフにします。

入店したら、まずはカウンセリングを受けます。カルテに今の健康状態や体の悩みなどを書き込むと、スタッフが適切な施術メニューを案内します。

筆者は生理痛や冷えが気になっていたため、下半身を重点的に温める「体質改善入浴」を体験することになりました。他にも「疲労解消入浴」や「美肌入浴」など5種類のメインメニューがありますが、「体質改善入浴」は、特に人気だそうです。

メニューが決まると、温かい薬膳茶と小包の発酵食品「丹生酵素」がサーブされました。
「丹生酵素」は無農薬の野菜や果物から抽出した栄養たっぷりのエキスが濃縮されたもの。体の代謝をあげ、温浴効果を高める効果があります。プルーンのような味で美味しくいただけました。
薬膳茶はしょうがと唐辛子入り。体を内側から温めてくれます。

さて、入浴の準備です。
手渡された入浴アイテム一式の中に、紙製のブラとパンツ、不織布の帽子が入っているので、こちらに着替えます。

メイクルームやロッカールームには、メイク落としや化粧水、乳液、コットンなど必要なものはすべてそろっているので安心です。

しっかりと化粧を落とし、着替えたら、いざ入浴へ。

たった15分。新感覚のおがくずで身も心もデトックス

落ち着いた照明の入浴室。じわっと湿度が高く、サウナや温泉同等の熱さを感じます。

発酵中のおがくずの温度は70〜80度まで達しますが、熱伝導率が低いため、体感温度は40度ほど。体を沈めてみると......さらさら、ふわふわ、もこもこ、そしてじんわりと温かい。摩訶不思議な感触に、気持ちよさだけではなく、子どものとき砂遊びをしたときのようなワクワクも込み上げてきます。
体の上にはかなりの量のおがくずが乗りますが、圧迫感はなく心地よい重みです。

香り高い浴槽内は、ヒノキのおがくず、ヒノキの葉、米ぬか、そこにオリジナルの「種菌」を入れて発酵させています。ヒノキの葉は香りをよりフレッシュにし、癒し効果を高めるための「nifu」独自のアレンジです。

入浴して数分後、汗が溢れ出してきました。体からも脳からも余計なものが排出され、五感が研ぎ澄まされていくような感覚を味わいます。「ゾーンに入る」とはきっとこのこと。
ただただ、気持ちよさと熱さに全神経を委ねます。

なお途中で強く熱さを感じたり、逆に熱さがもの足りなかったりする場合は、スタッフに声がけを。熱さを和らげる半身浴や、高温のおがくずの追加など、最適な調整を提案してくれます。

あっという間で奥深い15分間でした。シャワーでおがくずを落とし、休憩室で火照った体を涼めます。

サービスの梅干しと塩昆布とお茶で、汗とともに失われた塩分と水分を補給。これが痺れる美味しさ！　体が欲するものをジャストタイムで摂取する快感がたまりません。

汗がしっかりと引くまで休んで、メニューは終了です。この日は眠りにつくまで体がポカポカし、肌から香るヒノキの残り香にもとことん癒されました。

発酵温浴を楽しむ＝サステナブルな循環が動き出す

「毎日を忙しく生きる女性こそ、山に行って土に触れたような感覚を体験して、自分をリセットしてほしい」
そう語るのは、「発酵温浴nifu」を運営する株式会社テーブルカンパニーの代表・片山裕介さん（右）と、「発酵温浴nifu 新宿三丁目」のマネージャー・西村恵さん（左）。

「発酵温浴nifu」は、オーストラリアで美容師をしていた片山さんのある気づきから生まれたそうです。

「海外では早くからオーガニック素材や自国の伝統を活かしたスパが定着していました。でも日本は、そこに遅れがあると感じたんです。日本でも海外のようなサービスができたらと思い、昔ながらの発酵温浴に行き着きました」（片山さん）

そして発酵温浴を追求していくうちに、スパとしての価値だけではなく、社会的にも意義のある活動へと発展していきます。

「私たちは、奈良県にある吉野町の森林と深い関わりがあります。『nifu』で使用するヒノキのおがくずの一部には、吉野の森林内での捨て切り間伐によって生じる林地残材を使っています。林地残材は、切られたまま山の中で放置されている木のことで、林業地帯の問題の一つとなっています。木をそのままにしていると、将来の山林管理の妨げにもなりますし、土壌や、巡って川や海にも良い影響はありません。そうならないように、間伐後に朽ちる前に製材所に運び、発酵温浴の資材として活用しています。
お客さんが『nifu』で入浴することは、こうした環境問題を改善するサイクルに参加してもらうことでもあるんです」（片山さん）

吉野町にある自社製材所では、現地の林業従事者と協力しながらおがくずを製造。片山さんは月の半分は山の中にいて自称「林業従事者状態」、西村さんもよく一緒に現地へ行くそうです。

また「nifu」各店舗で役目を終えたおがくずは、農地で野菜畑の堆肥として再利用されます。

「常連のお客さまはこの活動に共感してくれている人も多いんです。お褒めの言葉はさまざまいただきますが、核心と言えばここかなと」（西村さん）

「今の体制作りには10年かかり、ようやくできたところ。ここから吉野の街全体を盛り上げる力になれたら嬉しいです」（片山さん）

この他にも、ヒノキや温浴の効果を数値化する研究も行っているとのこと。発酵温浴業界の改革・発展のために、先頭を切って働きかけていく姿勢です。

芯から温まれば、人は変わる

マネージャーとしてお客さんを直近で見てきた西村さんは、入浴前後で別人のようにリラックスしたり、快活になったりする場面を何度も目の当たりにしたそうです。

「きっと入浴後の姿が、その人本来の姿なんだと思います」（西村さん）

寒い季節はストレスも倍増。身も心も刺々しくなる前に、手軽でサステナブルな発酵温浴へと駆け込んでみてはいかがでしょうか。

Words：Yui Ichihara
Photos：Tsunenori Yamashita
2022/12/7

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