"発酵"をテーマに、人と地球に優しいホテルを目指す「EMウェルネス 暮らしの発酵ライフスタイルリゾート」。今回ご紹介するのは、このホテルが提供する「腸活リセットステイ」です。漢方のノウハウを取り入れながら、ファスティングまたはオートファジーを実践するというこのプラン。どんな体験ができるのでしょうか、さっそく訪れてみました。

北中城村の丘に建つ歴史建築を再生したホテル

沖縄県中部に位置する北中城村（きたなかぐすくそん）は、那覇市街から車で約40分。
世界遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」の構成遺産の一つである「中城城跡（なかぐすくじょうせき）」を擁します。15世紀中頃の城郭建築が、真っ青な空とエメラルドグリーンの海に映えていました。

「EMウェルネス 暮らしの発酵ライフスタイルリゾート」があるのは中城城跡から車で約10分。北中城村喜舎場（きしゃば）エリアの高台です。

迎えてくださったのは、副総支配人の前川幸輝さん。
「実はこのホテルの建物は、沖縄が本土復帰する前の1972年に『沖縄ヒルトン』として開業した歴史があります」

「『沖縄ヒルトン』は『泊まるのがステイタス』といわれるホテルでしたが1985年に経営が『シェラトン』に替わります。その後、日本の不動産会社が買い取ったのですが、バブル崩壊で工事がストップ。13年も放置されていたんです」とお話ししてくれました。
2階の渡り廊下にある花ブロックの白壁が沖縄らしい風情です。

「窓ガラスにある『MADE IN RYUKYUS』の文字は、琉球政府時代の建築である印です。2003年、廃墟のようだったこの建物を再生する話が『EMウェルネス』にきまして、建物の文化財的な価値を保ちながら蘇らせることになりました」と前川さん。
「EMウェルネスリゾート コスタビスタ沖縄ホテル&スパ」として営業してきましたが、2021年には「EMウェルネス 暮らしの発酵ライフスタイルリゾート」にリニューアルしました。

「この廊下が湾曲しているのは"ヒルトンカーブ"とも称されている特徴的なデザイン。ドア横の壁が突き出ているのはプライベートを守る意味があるのですが、建築当初は米軍の将校がよく泊まっていたので『撃たれないようになっている』とも伝わっています」と前川さん。
そんな機能も隠されていたとは。沖縄が歩んできた歴史の一端を垣間見た気がします。

客室は全210室。こちらはコンセプトルームの一つ、"眠り"に特化したEM珪藻土ハイフロア「いこい」です。
壁や天井などを調湿機能のある珪藻土でコーティング。枕は4種類から選べて、ベッドも体への負担が少ないマットレスを採用し、空気清浄効果があるという観葉植物・サンスベリアが置かれ、オリジナルオイルが楽しめるアロマディフューザーなども備えられています。

「客室を含む館内すべての清掃やメンテナンスに独自技術の発酵液を使用して、化学合成物質を使わない、自然に近いケミカルフリーな環境であることも特徴です」と前川さん。

このお部屋は絶景が望めるバルコニー付き。
「沖縄で東西両方の海が見える立地は珍しいんです。夜景もきれいですよ」
5階ですが、もっと高い階にいるように感じられる素晴らしい眺めです。

地元客も集うセレクトショップやレストラン

館内で印象的なのは、地元客で常に賑わっていることです。
1階「暮らしの発酵ストア」もその一つ。
「発酵、無添加、手作りにこだわったセレクトショップです。宿泊客の方にはホテルで体験したものを持って帰っていただけるように、地元の方々には生活の一部として、日常使いしていただけるようなラインナップにしています」

甘酒やぬか床などの発酵食品はもちろん、雑貨からTシャツまで販売。沖縄産の商品も豊富ですが、全国のこだわりの品が並んでいて、見ているだけで楽しくなります。

「お米や卵、野菜など買いにいらっしゃる地元の方が多いですね」と前川さん。
DELI&CAFÉも併設していて、ランチプレートやヴィーガンスイーツなども提供。お客様が絶えず賑わっていました。これからのホテルは"地域住民に愛されてこそ"なのかもしれません。

こちらは「暮らしの発酵STUDIO&LIBRARY」です。

納豆や味噌などの発酵食造りのほか、ヨガや農場散歩など毎週のようにワークショップが催されています。食や健康にまつわる多彩な内容でとても面白そうです。

東洋医学の知恵を使って腸をスッキリ

2カ月に一度開催しているという「腸活リセットステイ」ですが、2泊3日はどのような内容なのでしょうか。監修を務めている漢方薬剤師の井上奈美さんにお話を伺いました。

「大きな特徴は漢方を取り入れていること。最初にカウンセリングをして、一人一人の体質や状況に合った3日分の漢方薬を処方しています。たとえば、中国雲南省の標高4,000m以上に育つ仙樹（センジュ）のお茶を飲んでいただきます。珍しい生薬にふれていただけるのもこのプランならではですね」

参加者は「ファスティング（断食）」または「ランチ付きオートファジー」をチョイス。いずれも胃腸を休めて自浄作用を促すことが目的です。
「ファスティングは、水だけにする断食とは異なり、固形物の摂取を止めるという考え方で、一日2回フレッシュジュースを飲んでいただいています」
写真はニンジンとリンゴのコールドプレスジュース。甘くて味が濃いのにさらさらと滑らかでした。
「ファスティングの場合は少し準備が必要で、肉類・コーヒー・添加物などの摂取を控えていただくなど、1週間前からの過ごし方をメールでご連絡しています」

オートファジーのプランは、「ファスティングをするのは勇気がいる」「せっかく沖縄に来て、何も食べないのはちょっと......」と思う人のために作ったのだそう。事前準備は不要で、昼は野菜たっぷりのランチプレート（上の写真はイメージ）、夜は味噌汁、朝はスープをとります。
「オートファジー」は自らの細胞内の不要な物質を分解する働きのことで、飢餓状態のときに起こります。
「16時間、空腹の時間をつくることで、オートファジーのスイッチが入るよう促します」

漢方薬剤師として勤めながら、東洋医学を幅広く学んできたという井上さん。
「プラン中には、漢方で用いられる『陰陽五行論』の基礎をお話する時間を設けています。呼吸法や瞑想についてもレクチャーして、『メディテーション（瞑想）』の時間に実践していただいています」
呼吸法は自律神経の乱れを整え、瞑想は自分の内側を見つめることを促すといいます。
「東洋医学の基礎知識があると、体の変調に気づいたり、セルフケアしたりしやすくなるんです」
日常の健康維持のヒントも学べる機会になりそうです。

「『腸活リセットステイ』では、食事管理や漢方薬などの体内へのアプローチのほか、経絡（けいらく）という経穴（ツボ） に刺激を与え臓腑の調子を整えることをめざす"経絡法"も取り入れています。井上さんと一緒にプランを監修している医師の岡野寛先生と鍼灸師の若林史恵先生が施術してくれるそうです。(11・3・7月：岡野先生、9・1・5月：若林先生が担当)

滞在中は大浴場・サウナ完備のスパが使い放題なので、外に出かけずゆっくり過ごす人も多いそう。十分に体を休められそうです。

「腸活リセットステイ」のハイライトは3日目、腸内環境に働きかける薬膳スープです。
これはファスティング、オートファジーとも共通。内容はなんと、大根1㎏とその煮汁1L。面白いのは、大根そのものより煮汁を飲むのが重要だということ。
「大根には解毒作用があるといわれており、養分が溶け込んだ煮汁は腸内を整える役割を期待できます。量はありますが、皆さん『おいしい』と召し上がりますね」と井上さん。

薬膳スープはかなり効いて"排出"が促されるので、ルームサービスでお部屋に提供しているそう。経験した人にしかわからない、出し切った感があって、リピーターも多いとのこと。
「幸せホルモンのセロトニンの9割、免疫細胞の7割は腸でつくられるといわれています。見ためをきれいにしている人は多いと思いますが、腸内からきれいにしようと発想する人は少ないですよね。定期的に試していただくといいと思います。参加者の皆さんは『思ったより辛くなかった』とおっしゃいます」
これは体験してみたくなります。

「お客様と漢方相談をするのが大好き」という井上さん。懇切丁寧で熱意あるお話に引き込まれ、つい話が逸れて自分の体調の相談してしまいました。
2泊3日で体をスッキリ整え、スパにも入り、東洋医学を学びながら健康についての個別相談もできるとは。充実した滞在を味わえそうです。

Words : Yuki Asakura
Photos: Hako Tamura & Yuki Asakura

2023/7/5

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