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神奈川県・横須賀市の「焚火カフェ」
三浦半島のとあるビーチに、焚き火でコーヒーを淹れてくれるカフェがあります。その名もずばり「焚火カフェ」。ただし店舗があるわけではありません。"焚き火マスター"ともいうべき人物がビーチにひょいと現れ、火を熾(おこ)し、日没まで焚き火を囲みます。1日1組限定、完全予約制の「焚火カフェ」の正体とは?
向かったのは海ではなく、山
「こんにちは。今日はようこそいらっしゃいました。それではまず水を汲みに行きましょうか」
水を汲む! そう、このカフェには水道も冷蔵庫もありません。考えれば当然のことですが、屋外でコーヒーを飲むならまず水を調達しなければ。「焚火カフェ」の店主、寒川一(さんがわ・はじめ)さんのクルマに乗り、ビーチではなく山へ向かいます。
待ち合わせした駐車場からほんの5分ほど。地元の小さなお不動様に着きました。寒川さんは小さな拝殿の賽銭箱にお金を入れて鈴を鳴らし、手を合わせます。湧き出す水をポリタンクへ。大量に汲むのではなく、片手で楽々持てるほどの量です。
「いつもは待ち合わせのあと、すぐに焚き火の準備にとりかかります。よっぽどのリクエストがあればこの場所にもご案内しますが、ご覧のとおりの小さな湧き水。水汲みの人で混み合うと、お待たせすることになっちゃいますからね」
駐車場に戻り、ようやくビーチへ。薪には海岸に打ち寄せられた流木を使います。この流木も、予約のその日に必要な量だけ拾い集めるそう。波と砂に削られて角がとれた流木は、キャンプ場で使う薪とはまた違う美しさがあります。海での焚き火にマッチする感じ。
水と薪、焚き火台、テーブル、ケトル、グラウンドシート。さまざまな道具と、コーヒーやフード類をビーチに運びます。いよいよ「焚火カフェ」の開店です。
焚き火の流儀
アウトドア好きはひと目見ればわかると思いますが、寒川さんの使う道具はどれもすさまじく使い込まれています。そして古いのにカッコいい。実は寒川さんには、カフェ店主のほかにアウトドアライフ・アドバイザーという肩書きがあるのです。
「L.L.Beanのバッグなんて、破れたハンドルに革を貼り付けて使っていますからね(笑)。実はこの焚き火台も僕がプロデュースしました。香川県の槙塚鉄工所とコラボして立ち上げた焚き火道具ブランド、"タキビズム"の製品なんです」
商品名は「JIKABI」。一般的な焚き火台に比べて低く設計してあり、まさに直火のような感覚で焚き火を楽しむことができます。この高さは足元の暖かさを追求したゆえのこと。外周部のゴトクには保温したいケトルを乗せたり、湿った薪を乾かしたり。寒川さんが長年温めてきたアイデアが詰まっているのです。
着火にも寒川さんの流儀があります。焚き付けは、表面をナイフでささら(日本の民芸品の一種)のように削った薪を何本か。絵になりますし、儀式が始まるようで気分が盛り上がります。着火剤代わりに油分を多く含むシラカバの樹皮を少し。そしてマッチやライターではなく、ナイフの背でメタルマッチを擦って引火します。
「焚火カフェを始めた当初は、マッチやライターも使っていました。でもできるだけ、自然に近い状態で火を熾したくなったんですよね。それに飲み物、食べ物を扱いますから、マッチの匂いや着火剤の成分が気になってしまって」
あっという間に火が着きました。焚き火ってこんなに簡単なの?と錯覚してしまいそうですが、これは長年培ってきた経験がなせるワザ。中学生のころから40年以上、「焚火カフェ」を初めて15年以上、火に向き合ってきた寒川さんだからこそ可能なワザなのです。
コーヒーと同じように時間を味わう
「焚火焙煎コーヒー」(2,200円・4杯分)に使う豆は、地元葉山の「THE FIVE BEANS」のもの。ハンドロースターを使い、焚き火でじっくりと焙煎していきます。
「街のカフェでのんびり生豆から煎っていたら、お客さんに怒られます。いつになったら出てくるんだって(笑)。でもビーチだからこそ、焚き火だからこそ許される時間だと思うんです」
「焚火カフェ」は基本的にはワークショップ形式。焚き火の着火も、豆のローストも、湯の沸かし方も、すべて寒川さんが教えてくれます。ぜひ薪を削ったり、メタルマッチを擦ってみてください。火を熾すのは無邪気に楽しいことですから。
焙煎が終わった豆をザルに上げて冷まし、続いて「焼きリンゴ」(1,100円)用の可愛らしいダッジオーブンを焚き火へ。同時に粉を直接ケトルに入れて煮出す「スウェーデンスタイル焚火コーヒー」(2,200円・6〜8杯分)も仕込みます。
「あとは待つだけ。焼きリンゴもスウェーデン式コーヒーも、待つことだけが上手にできるコツなんです」
火を眺め、海を眺め、寒川さんの手際を眺めているうちに、時間の流れがゆるやかになっていく気がします。ケトルに新しい湯が沸きました。「焚火焙煎コーヒー」の豆をミルで挽き、ドリップして、いただきます。もう、なんというか、格別な味。
「僕が言うのもなんですが、不味いわけがないですよね(笑)。ああ、日が暮れてきました。この時間がいちばん好きなんですよ」
決して尽きない"焚き火欲"
レーズン入りでほんのりシナモンが効いた「焼きリンゴ」に、ワイルドな味わいの「スウェーデンスタイル焚火コーヒー」。ハムとチーズを入れた「ホットサンド」(1,100円・2個入り)も、熱々で最高でした。
「シメは焼きマシュマロ(550円・4個入り)です。このマシュマロは甘すぎなくて美味しいですよ。焼けたらクラッカーに挟んで召し上がってください」
熾火(おきび)になりかけた箇所を狙って、長いフォークに刺したマシュマロをじわじわと炙っていきます。上手く焼けるとパンパンに膨らむのが面白い。胚芽入りクラッカーとの相性も、コーヒーとの相性も抜群です。
「雨が降ったり風が強かったりすると焚き火はできませんし、夏も暑いので7月ごろから9月中旬までは営業していません。比較的天候が安定する、10月から12月にかけてが最高の時季ですね」
「今日は風もなくていい焚き火ができました」と寒川さん。そもそも焚き火を生業としている人なんて、もしかしたらこの人だけかも知れません。そして日々焚き火を続けてなお、焚き火に対する新鮮な気持ちを保ち続けているように見えました。
「焚き火はね、飽きないです。ワークショップ形式なのですが、本当はすべての作業を自分でやりたい(笑)。でも僕だけが特別ではありません。15年間、いろいろなお客さんを見てきましたからわかります。火を熾すこと、火を眺めることに人は本能的に惹かれる。食欲や睡眠欲と同じように、誰にでも必ず"焚き火欲"が備わっているんですよ」
Photos: Hiroyuki Suzuki Words: Tomoshige Kase
2020/11/4取材
2021/3/26編集
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[予約・問い合わせ先]
「焚火カフェ」
san@ozzio.jp
1週間前までの予約が必須の完全予約制。人数は2名〜。メールで希望の日程、人数、交通手段などを連絡する。
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[場所]
予約日の2日前を目安に場所の連絡がくる。基本はJR逗子駅・京浜急行新逗子駅からバスで約20分の「立石」バス停で下車。徒歩1分の秋谷海岸で実施。風向きや天候状況によって場所が変更される場合もある。
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[営業時間]
日没前の約2時間。雨天中止。雨天時のキャンセル料は不要。
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[基本料金]
2〜3名で利用の場合|3,850円・1名分
4名以上で利用の場合|2,750円・1名分
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[メニュー]
焚火焙煎コーヒー|2,200円・約4杯分
スウェーデンスタイル焚火コーヒー|2,200円・約6〜8杯分
焼きリンゴ|1,100円
ホットサンド|1,100円・2個入り
焼きマシュマロ|550円・4個入り
※そのほかチョコラテ、ソーセージ、ポップコーンなど。焚き火用ポンチョのレンタルも可能。メニュー内容の人数分の調整は要相談。詳細は下記Facebookページで確認を。
https://www.facebook.com/3knottakibicafe/
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基本料金(焚火に関わる一式) 2〜3名で利用の場合、2名分
以下メニューはコーヒーと食べ物を楽しめる 参考構成。 メニューからお好みで お選びいただけます。 |
7,700円 |
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焚火焙煎コーヒー(約4杯分) | 2,200円 |
焼きリンゴ | 1,100円 |
ホットサンド(2個入り) | 1,100円 |
焼きマシュマロ(4個入り) | 550円 |
参考コスト合計金額 |
<ストーリーに関するご留意事項>
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