地球上にいる全人類の細胞内に存在するミトコンドリアのDNAを遡ると一人の母親に辿りつく――。これはSF映画の話？　いいえ、科学的に発見されている遺伝子界の常識なんです。"ミトコンドリアのDNA"は一般的に母系遺伝するため母親からその母親、またその母親をたどることで、自分がどこからやってきたのか「祖先解析」が可能です。

今回はそんな手法で行う「祖先解析」や「体質」「健康リスク」を知ることが可能な、日本初の個人向け遺伝子解析サービスを筆者が実際に体験してみました。その名も「ジーンクエスト　ALL」。

いったい遺伝子解析サービスは私たちの生活にどんな好影響をもたらすのでしょう？　ジーンクエスト社を訪れ詳しくお話を伺います。

キットに唾液を採取して投函！300項目以上の遺伝的傾向が判明

「ジーンクエスト　ALL」は日本人の疾患や体質との相関について科学的根拠のある約70万箇所の遺伝子を解析対象としており、個人の健康リスク・体質の遺伝的傾向・祖先のルーツについて300項目以上の遺伝情報を提供しています。

たとえば、かかるリスクの高い病気や効果的なダイエット方法、体質、性格、能力などなど。なかには細胞寿命をつかさどるテロメアの情報や、脳の海馬容積、ユニークな尿内のアスパラガス臭をかぎ分ける能力なんて項目まで。

また、ユーザーから許諾を得て取得した遺伝子の統計データとWebアンケートで聞いた生活習慣や既往歴に関するデータを匿名化してデータベース化し、外部企業や大学、研究機関などと共同研究にも取り組んでいます。なかには研究したものを解析結果として提供している項目もあるそう。「ニンジンの摂取頻度とBMI」などがそれに当たります。

なんだか扱いが難しそうですが、いたって簡単でした。

Webから遺伝子解析キットを購入し自宅に届いたら、自分の唾液を入れて返送するだけ。オンラインで新規会員登録と解析IDの登録を済ませば、1〜2カ月後くらいに解析完了のお知らせがありマイページで結果を見られるようになります。

筆者は約3万5千年前にユーラシア大陸を海岸沿いに移動して、東アジアに移動してきた集団の中で生まれたと考えられる祖先グループ「D」に属することが判明しました。自分と同じグループに属する人たちがどの都道府県において分布が多いかも分かります。

上の写真がマイページのトップ画面。健康リスクのグラフが真っ先に気になりました。恐る恐るクリックすると、統計的に将来かかる可能性の高い病名がズラリ。親族が患っている病気や、名前すら聞いたことのない病名もありドキッとしました。

「循環器・心臓」「脳・神経」「がん」などの種目別でも健康リスクを閲覧できます。

体質についても「スキンケア」「能力」「美容・体質」「免疫」「性格」などの種目ごとに結果をチェック可能。「BMI（体格指数）」「γ-GT（肝機能の指標）」「アルコールとニコチンの共依存」「白血球数」「経済・政治の関心」「結婚初期の夫婦関係満足感」「試行錯誤学習（学習能力）」「就寝時刻」「HDL（善玉）コレステロールのレベル」「肌の光老化」「肌のバリア機能（経表皮水分蒸散量）」など、あらゆる情報が興味深く、そのまま3時間ほど読み込んでしまいました。

「遺伝子解析はリスク予防に役立つ"天気予報"みたいなもの」

株式会社ジーンクエストの代表取締役は、雑誌『Newsweek日本版』（2019年4月30日号）にて「世界が尊敬する日本人100」 に選出されるなど注目を集める研究者・高橋祥子さん（専門：分子生物学、統合オミクス）。いま注目のベンチャー企業の一つです。筆者は検査結果をたずさえ同社取締役の岩田修さん（上の写真）にお話を伺いました。
「遺伝子解析サービスで病気リスクや体質を把握することで、生活習慣や食生活を変えるなど事前に予防策を打つことができます。また、自分の知らない可能性に気づくきっかけにもなるでしょう」と岩田さんは話します。
メインユーザーは「親が病気になったことで自身の遺伝傾向に興味を持ちやすいと予想される」40、50代だといいます。

ひとつ頭に入れておきたいのが、「リスクが高いからといって必ずしも病気を発症するわけではない」ということ。逆に、たとえば糖尿病になる遺伝的リスクが低いからといって長年暴飲暴食を続けていれば発症する可能性は高まるといいます。
「私たちのサービスは医師が行うような診断や医療行為ではありません。あくまで遺伝子グループの傾向を統計学的に数値化し、信頼のおける最新の研究文献に照らし合わせて情報をお届けします。例えるならば、"天気予報"のようなもの。予め知っていれば傘を持って出かけられるように、一定の対策方法を分かりやすくお伝えしています」（岩田さん）
病気の情報は"投げっぱなし"ではなく、最新の研究文献を根拠にしたオススメの予防アドバイスまでフォローされていて親切だと感じました。

各病気がどれほど遺伝的な影響を受けるのかはそれぞれパーセンテージで示されており、その数値が高いほど用心が必要だと岩田さんは話します。

あなたはニンジンを食べると痩せやすい？　遺伝子解析を食卓に反映しよう

日本ではダイエット目的で遺伝子解析を受ける人も多いそう。筆者の場合は「糖代謝が一般的」なのに対し「脂質代謝がやや低め」という結果だったので、減量したい時は甘いスイーツよりも脂っこいラーメンを我慢した方が効果的だとわかりました。
「分析結果は毎日の食事に落とし込むのがオススメです。食生活が似ているご夫婦が一緒に検査を受ける例も珍しくありません。不足しがちな栄養素を補ったり、お酒の強さやアルコール依存症になりやすい度合いが夫婦で異なることを把握しお酒の量をコントロールしたりと、実生活に役立てていらっしゃいます」（岩田さん）

なんと筆者は「ニンジンの摂取頻度が高いとやせ型傾向になるタイプ」であることも判明。ほかにも「カフェイン摂取で運動パフォーマンスが大きく向上するタイプ」「筋肉の柔軟性が高いタイプ」「女性では食べ過ぎの傾向が低めのタイプ」であることもわかりました。実際とは異なる結果もいくつかありましたが、これは遺伝子傾向よりも生活習慣的な不摂生が身体に色濃く出てしまったということ。心当たりがありすぎました。
なかには「尿内のアスパラガス臭をかぎ分ける能力」など、何の役に立つのか分からないが話のネタにはうってつけの検査結果もあり、楽しめました。

発展し続ける遺伝子解析サービスの可能性

アメリカでは日本の血液型占いくらい「祖先解析」が大人気。家系図づくりが立派な趣味として市民権を得ているそう。
「今後、日本でももっと遺伝子解析を受ける人が増えれば、私たちがお戻しできる解析項目もさらに増えるでしょう。将来的には自分に合うスポーツやトレーニング方法を遺伝子解析から導き出したり、朝に強いか、協調性があるかなどの遺伝子傾向から適職を決めたり、なんて未来も訪れるかもしれません」（岩田さん）

ヒトの遺伝子は、何度検査しても結果が変わらない"一生モノ"。遺伝子研究は発展し続けているので、研究が進み新たな結果をジーンクエストが提供できるようになれば、追加費用なしで、いつでもマイページからチェックできる点も魅力的です。
後日談。筆者はこれまで以上に栄養素を意識して食事をするようになりました。祖先から脈々と引き継がれた"個性"を、生活習慣や努力でさらに磨いていきたい。そんな前向きな気持も芽生えました。勉強が苦手だとずっと思い込んできましたが記憶を司る「海馬容積が大きめのタイプ」と知り目から鱗、もっと早くに分かっていれば人生変わっていたのではとちょっぴり悔やまれます。ユニークな遺伝子ネタが増えて友人との雑談が楽しくなったのは嬉しい副産物でした。

※解析結果は病気の診断に利用できるものではなく、医療行為にも該当しません。医師の診療を受けている場合は、医師の指導を優先してください。

Words: Riyua Joe（mogShore）
Photos: mogShore

2022/1/6

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