今、世界的な問題となっているプラスチックをはじめとする海洋ゴミ。山や街から出るゴミは川を伝って、海に流れ着き、そこで潮に洗われて、漂流物となりビーチに流れつきます。そんな漂流物を拾い集め、アート作品に昇華させているのが、アーティストの髙梨新一さんです。髙梨さんは20年以上も前からこのアート活動を始め、海の姿や社会の変化をつぶさに感じ取りながら、作品の制作を続けています。

圧巻の漂流物コレクション

青く光る相模湾の海と小高い山々に囲まれた、神奈川県・葉山町。髙梨さんのアトリエは山側の長柄という場所にあります。オレンジ色の壁に蔦の絡まる秘密基地のようなアトリエへ入ると、多種多様な漂流物が出迎えてくれ、そのオーラに圧倒されます。キレイに仕分けされた流木やプラスチック、漁網の一部、流れ着いたボール類、小さなフィギュアなど、一つひとつに目を向けると、しばし自分の中の時間がスローモーションのように流れるのを感じます。波によって削られ、柔らかい表情になっていたり、あるいは尖った激しい形状になっていたりと、それぞれにどこからか漂流してきて、最後にビーチに流れ着くまでの様子が刻まれています。まるで、その旅した時間を語りかけてくれるかのように。
「ほとんどが葉山を含む三浦半島の海岸から拾い集めてきたものです。当初は海に流れ着いた流木が好きで集めていたのですが、ほかのものも目につきはじめました。種類が増えていき、作品の幅が広がりました」と髙梨さん。

集めたピースをアートに昇華

このように髙梨さんはビーチコーミング(海岸などの漂流物を拾い集めること）から得たマテリアルでの制作を長年続けています。時代とともに集めやすい種類が変ったり、あるいは社会や住民の意識が変遷したりと、漂流物に対する価値観も変化してきたと語ります。「今は何と言ってもプラスチックですよね。プラスチックが海洋汚染に繋がっていると考えて、自主的にビーチクリーンをしている人が増えています。でも集めたあと、それをゴミとして焼却すると、火力エネルギーを使用し、その煙や二酸化炭素の排出が環境への負荷につながってしまいます」。髙梨さんは、そうした大きな社会問題になる前から、海辺のプラスチックを集めて、作品に使用してきました。ある人にとってはゴミであるものが、アートの材料になるのです。

自由に並べることで造形が生まれてくる

「まずは拾ってきた漂流物を洗浄し、色や形で分類をします。何かの形を作ろうとするときは、それらをピースとして並べていき、さらに立体化を試みます。並べているうちに自分の中でも分からない面白い造形が生まれてきます。そしてしばらくそのまま目に付くところへ置き、毎日眺めます。そうすると何かのアイデアや、拾ったものでこうした方がいいと思える瞬間がきて、新たな視点が生まれます。作品に足したり、引いたりしながら常にアップデートしていく感じです」と作品作りのプロセスを教えてくれました。

海のロマンが詰まった作品たち

ユーモラスな表情をたたえた人形達が何体も並び、背景のオレンジや上部の花火のようなもので明るく元気な印象を与えてくれる、こちらの作品が「HAPPY FAMILY」(販売中の１点ものアート作品。他にもアトリエでは、流木を使ったキーホルダーなどのアクセサリーなども取扱中）です。人体の部分はゴム製品の漂流物を中心に構成されており、足下の地面には小さな流木が敷きつめられ、賑やかな空を飾るのはプラスチック類です。
「この作品も初期の頃からバージョンアップしているものです。最初に１体、人を作りました。そして段々とその人形が増えていき、ならばと思い一つの世界の中へ家族としてディスプレイしました」。

寄せては返す波は、一つとして同じものがないと言われています。波にもまれる漂流物もまた同じで、そこから生まれる髙梨さんのアートも、躍動感のある動物、幾何学的な模様、完全な抽象など、テーマが一定でなく固定観念にとらわれていないのが自然なことに感じられます。一方で海が持つ懐の深さや、自由さはどの作品からもにじみ出てきます。
最後に髙梨さんへ「なぜ山や川でなく、ビーチの漂流物なのか」とたずねると、「海のロマンだよ」とこたえてくれました。その目には、大洋に漕ぎ出すヨットのような清々しさや、波間を漂う悠久の時間を遠く見つめるような表情がありました。アトリエは山の麓に建っていますが、ここで出会える作品たちからは、爽やかな湘南の潮騒が聞こえてきます。

Photos: Hiroyuki Joraku　
Words: Tomohiro Tsuchiya @ Yellowjam

2021/2/22

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