部屋の中でクジラが泳ぎ、動物たちが行進し、植物たちの細かい表情がみえ、岩石が散りばめられる。日本の住宅に多い無地でプレーンな壁面を、夢踊る空間にしてくれるのが、国内壁紙シェアトップの「サンゲツ」と国立科学博物館がコラボした壁紙「DAY AND NIGHT SCIENCE MUSEUM」です。アカデミックな表現をそのままに壁紙としたため、学習要素はもちろん、実際に博物館にいるような迫力で、空間をお洒落に演出してくれます。

上野の国立科学博物館とコラボレーション

「日本における住宅の壁紙といったら、無地やお部屋に馴染みやすいシンプルな柄ものが主流です。しかし欧米を始めとする海外では、大胆なカラーやデザインを楽しむ方も多い」とサンゲツの担当者。

そこで同社では、海外トレンドも取り入れつつ、毎年デザイン性の高い新しい壁紙をプロデュースしてきました。そして今回取り組んだデザインが、国立科学博物館の標本をもとにした「DAY AND NIGHT SCIENCE MUSEUM」でした。

「今までは取り組んだことがない学術的な分野とコラボレーションすることで、新たな壁紙の可能性が広がるのではないかと考え、我々としても思い切った挑戦になりました」

「サンゲツさん側から相談があったのは、クジラの研究イラストを使って壁紙を作りたいということでした。しかも通常の壁紙のように一定パターンの柄にするのでなく、標本資料そのものを活かして壁紙に表現したいというご提案でした。博物館側としても所蔵しているコレクションを展示以外でも新しい形で一般の方に還元するにはどうしたらいいか、検討を続けているタイミングでした」とは国立科学博物館のマーケティングを担当する内尾優子さん。

研究者の監修でリアルさを求めた

国立科学博物館には自然史・科学技術史分野の専門家である、60名以上の研究者が在籍しています。壁紙として表現されることを踏まえ、どういった資料を選ぶと良いか、研究者とデザイナーの間に内尾さんが入り調整をし、クジラを含め４つの分野での壁紙の製作が決まりました。

「標本の貴重さや専門的バランスを検討した結果、海棲哺乳類、植物、陸生哺乳類、岩石で壁紙を製作することになりました」と内尾さん。

研究者とサンゲツのイメージを整えた結果、「動物では大きさの比率を正しくすること。植物は日本の固有種に限って掲載。また岩石についてはどういった種類で、どこで採取したものかが分かる情報も表示する」など博物館の資料らしさが出る表現で決まりました。研究者は学術的な意味合いを考慮して具体的な対象物を選び、デザイナーは色合いや、大きさなど配置のバランスを考えながら、製作は進んでいきました。

国立科学博物館の植物標本展示（上の写真）をモチーフにつくられた壁紙（下の写真）は、発見者の名前まで入っていて、まるで本物の標本展示のようです。このリアリティは、研究者が直に監修しているからでしょう。

「研究者さんならではの強い思いを取り入れるのに苦労しました。海棲哺乳類でしたら左右反転をしてはいけませんでしたし、陸生哺乳類では動物の毛の色などを合わせる色調整が難しかったです。またすべての撮影において貴重な資料を扱うのに、手に汗握る思いでした」とサンゲツ側の担当者。

普段の壁紙デザインでは、柄の繰り返しによる癖が出ないよう、柄の形や色を調整するものが多いといいますが、今回はあくまでアカデミックな再現性を大切にしたので、苦労した面もあったようです。

コレクションを次世代に伝える

博物館というと展示物を鑑賞するために来るところ、と思っていらっしゃる方が多いと思います。一方で研究者たちの調査で集められた貴重な標本や資料を適切に保存し、未来に伝えるという役割も担っています。

「絶滅してしまった生物など新たに入手できないものも含め、重要な実物証拠を引き継いでいくことで、将来、新たな発見がなされることがあります。コレクションを次の世代に伝えていくことは我々の大切な使命なのです。その意味で今回の壁紙は一般の方に、身近な生活空間でその使命を少しでも感じ取って興味をもってもらえたら嬉しいです」と内尾さん。

書斎や趣味の部屋に、リビングにと、アカデミックでエッジが効いたミュージアムコレクションの壁紙にすれば、日々の会話も弾み、暮らしに新鮮な驚きや発見をもたらしてくれるはずです。そして、子ども部屋にあしらえば、部屋がまるごと図鑑状態に。この壁紙を眺めながら育った子が未来にどのような夢を描くのか、興味深いですね。

Photos: Hiroyuki Joraku　
Words: Tomohiro Tsuchiya
2022/8/26

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