客足が絶えないおはぎ専門店「タケノとおはぎ」。まるで花束のような見目麗しいおはぎを日替わりメニューで販売しています。

そんな「タケノとおはぎ」が手がけるオーダーメイドブランド「春まど」は、一人ひとりの希望にこたえる特注の箱入りおはぎを製造しています。1日でつくることができる数は3～4セットのみ。誕生日、成人式、長寿祝い......"ここぞ"という日においしく華を添えます。

365日の季節の移ろいを表現する、日替わりのおはぎ屋

漫画家・長谷川町子さんが住んでいたことでも有名な東京・桜新町の一角、小さな入り口が日替わりおはぎの専門店「タケノとおはぎ」です。いつもはこの入り口の前に順番待ちの列ができています。

店内は無機質でスタイリッシュな雰囲気。その中に、色とりどりのおはぎが並びます。

ラインアップは、日替わりのおはぎ5種類と、定番のおはぎ2種類の合計7種類。この7種類のおはぎで365日の風景や天候、旬の食材、人や物との出会いを表現しています。

オーナーの小川寛貴（おがわひろき）さんは、かつてヨーロッパスタイルのデリを経営していました。なぜ和菓子の専門店へと生まれ変わったのか、そのエピソードはのちほど......。

オーダーした「春まど」のおはぎは「タケノとおはぎ 世田谷本店」で受け取ります。まずは、お目当てのおはぎとご対面です。

「思い出の写真」が「おはぎ」に生まれ変わる

オーダーメイドおはぎ「春まど」では、花や着物、風景など、思い出の写真を預かり、そこから着想を得てオリジナルの箱入りおはぎをつくりあげます。今回筆者は、母の誕生日が近いこともあり、手づくりのエプロンをプレゼントする予定でした。そのエプロンの写真でオーダーをしてみました。

この写真から、一体どんなおはぎが生まれるのでしょうか。

完成したおはぎがこちら。

重厚感のある桐箱のなかは、眼福の一言。美しさに圧倒されます。

白いんげん豆をペーストしてつくった白餡をベースにしており、野菜のほのかな甘みを感じる自然な味わい。

カラフルな色はビーツや抹茶、ターメリックなど食物で色付けされています。おはぎのなかにはアプリコット、イチジク、クランベリーいずれかのドライフルーツが入っています。餅米と共に味わうのは、不思議ながらも後を引くおいしさです。

あえて花で埋め尽くさず、左上に「余白」が作られたデザイン。「タケノとおはぎ」独自の引き算の美学で、日本的な感性も大切にされています。

後日、「タケノとおはぎ」から完成時の写真データが送られてきました。食べたらなくなってしまうため、写真は残しておけるようにとプレゼントしているのだそう。感動の余韻を長く楽しめました。

失いかけた祖母の味を守るために

「大した理由があったわけではありません。純粋に、祖母の味がなくなってしまうのが嫌で......」。店の成り立ちをそう語るのは、代表の小川さん。「タケノ」はおばあさまの名前だそうです。

「幼い頃からおばあちゃんっ子でした。祖母はいつもおはぎをつくっては食べさせてくれていましたが、年を重ねるにつれてつくるのが難しくなってきてしまい......。このままだと祖母の味が消えてしまうと思って、レシピを教わったのがはじまりでした」（小川さん）

写真は小川さんと祖母・タケノさん。仲のよさが伝わってきます。

「タケノとおはぎ」で年中変わらずに販売する「こし餡」と「つぶ餡」は、タケノさんの味を再現したものです。甘さはほとんどなく、おにぎりのようだったと小川さん。「タケノとおはぎ」のおはぎも糖度は最小限におさえて、素材の味を活かすこと、パクパク食べられることにこだわります。

以前はヨーロッパの街中にある地域密着型の惣菜店に憧れていたという小川さん。これまでスペインバルや洋風のデリカテッセンと、和菓子と異なる道を歩んできました。

「デリカテッセンは2019年まで経営していましたが、パンもスイーツもつくりますし、輸入食材や雑貨の販売をしたりもして、正直"なんでも屋さん"状態でした。次第に、なにかの専門店で、かつ日本独自のものに挑戦したいという気持ちが出てきて、改めて祖母のおはぎを思い出したんです」（小川さん）

転向にはさぞ苦労があったかと思いきや、「難しくはなかった」と小川さん。意外にもヨーロッパの惣菜とおはぎには共通点があるのだそう。

「どちらも"白いんげん豆"をふんだんに使っています。あらゆるものと組み合わせられる万能な素材なのですが、日本ではあまり馴染みがなく、逆にヨーロッパではあらゆる料理や惣菜に使われています。なので僕にとっては最後の形が"おはぎ"に変わっただけで、それ以外はこれまで通りに近いんです」（小川さん）

さらにニューヨークのカップケーキから着想を得て、代名詞ともいえる「花のおはぎ」も誕生。世間が注目する和菓子が誕生しました。

「その人のため」だけにつくることは、何重もの喜びになる

「タケノとおはぎ」を立ち上げて2年後、オーダーメイドの受注がはじまりました。きっかけはなんだったのでしょうか？

「知り合いのお店の1周年記念があったので、花のおはぎを箱に敷き詰めてフラワーボックスのようにして渡したんです。そうしたら、想像以上に喜んでもらえて。誰かひとりのためだけにつくることがこんなにも感動を伴うものなんだと、心動かされました」（小川さん）

お客さまの大切な思い出を預かるオーダーメイド。そこに大きな意義を感じているといいます。

「一つひとつ異なる写真を、おはぎとしてどうデザインするか。難しい作業ですがやりがいがあります。注文した方も受け取った方も必ず喜んでくださいますし、僕たちにとっても新しいアイディアを得る機会になっています。喜びが何倍にも広がっています」

今後は海外の方にもサービスを届けたいと小川さん。

オーダーメイドの予約は、公式サイトのカレンダーから受け付けています。まずは、思い出の一枚を探すところからはじめてみてはいかがでしょうか。

Words：Yui Ichihara
Photos：Yasuharu Hoshino

2024/5/30

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