なかなか予約がとれないことで知られる東京・湯島の甘味割烹「廚 菓子くろぎ」。同店の魅力が凝縮された軽食・和菓子・お茶からなる「甘味割烹コース」をいただきに伺いました。一年を通しての"メインディッシュ"は自慢の「かき氷」です。

ある真夏日にインターネット経由で最短の空席日を予約し、首を長くして待つこと約半月。空と風の気配が夏から秋に変わりはじめた頃、数寄屋造りの日本家屋の暖簾をくぐりました。

日本料理の名店が「若い人に気軽に和食文化を楽しんでほしい」とオープン

この甘味処を手掛けるのは、日本料理の名店「くろぎ」です。オーナーの黒木純さんは"日本料理界の牛若丸"との異名を取り、和食の新境地を切り拓いてきました。テレビ番組『アイアンシェフ』（フジテレビ系列、2012年10月～2013年3月放送）で披露する鮮やかな和食の腕に魅了された視聴者も多いかもしれません。

甘味割烹「廚 菓子 くろぎ」 が誕生したのは2013年。「和食；日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたのを機に、和カフェスタイルの甘味割烹をつくることを決意したそう。「この貴重な和食文化を後世にきちんと残したい、若い人にもっと気軽に楽しんで欲しい」という想いがあったといいます。建築家の隈研吾さんとタッグを組んだ東京大学本郷キャンパス内への出店を経て、2020年の11月に、東京下町の風情漂う湯島の裏路地に移転してきました。

とっておきの和菓子とカウンター席で対峙する口福の時間

お店に入るとまず目に飛び込んでくるのはカウンター席。白衣に身を包んだスタッフさんたちが出迎えてくれました。カフェというよりまるで高級割烹のような雰囲気で、こちらも思わず背筋がピンと伸びます。

予約席のほか、空き次第ですぐに座れる一般席も。ただし人気店ゆえ、こちらも時間帯によっては行列を覚悟した方がよさそう。

男女ともにひとりで来店する甘味ファンも多く、この日もカウンター席で静かに和菓子と対峙し口福を噛みしめるおひとりさまの姿を何人も目撃しました。わかります、大好きなお菓子を誰にも邪魔されず、静かにじっくりと楽しみたいその気持ち。

くろぎ名物の「胡麻豆腐」から始まる「甘味割烹コース」

さて、単品の甘味は予約なしでも楽しめますが、今回のお目当て「甘味割烹コース」は予約必須。献立は先付け、御凌ぎ、一菓、二菓の構成で、順に登場します。

トップバッターの先付けは、日本料理屋「くろぎ」の名物の「胡麻豆腐」（上の写真）。熱した陶板の上の「胡麻豆腐」に醤油をたらしており、香ばしいにおいがふわりと鼻孔をくすぐります。吉野の本葛、本わらび粉、煎った白胡麻で創られた「胡麻豆腐」は驚くほどのふわふわ食感。お好みでワサビをつけていただきます。奥深い味わいにうなりました。

続いては、御凌ぎの「赤飯膳」。赤飯、出汁巻き卵、牛しぐれ煮、香の物が上品に並んでいます。

小豆だけで色出ししたホクホクの「赤飯」は、蒸す際に酒塩でしっかりと味付けしているから単品でそのまま食べても美味。店のロゴマーク型に抜かれたコロっとしたフォルムに、なんだか愛着を感じてしまいます。

「牛しぐれ煮」は日本料理屋「くろぎ」の定番。和牛のリブロースがほろほろに煮込まれています。そのほかに、やさしい味わいに癒やされる巻きたての「出汁巻き卵」と、時期によって変わる「香の物」（この日はシャキシャキ食感の野沢菜）の4品を一口ずつ順番に味わうことで、異なる味のハーモニーが口の中に広がりました。

こうして塩味のある軽食で舌を整えておくことで、このあとの「かき氷」がよりいっそう引き立つのです。

通年で味わえる「かき氷」は、まるで芸術作品

いよいよお待ちかねの一菓＝メインディッシュの「かき氷」が登場。「定番」と「季節の旬食材」のどちらかを、お好みで選びます。

今回は特別に季節を選ばずいただける定番かき氷から、「富士山」（上の写真）と「黒胡麻みたらし」の2つを撮影させてもらうことに。

「富士山」は、カウンター席の奥にあるマシーンで削ったばかりのふわふわな純氷に、北海道産小豆を使った自家製ぜんざいがたっぷりとかかっています。ひと口食べて上質だと分かる粒あんは、食べごたえがあります。

純氷の壁を削ると、中にはきなことチーズクリーム、少量のビスケットが。上品で甘すぎず、きなこの甘じょっぱさと、ビスケットの食感も手伝ってペロッといただけました。本物の竹を塗装した器と、秋らしい銀杏形のお皿を含め、まるで芸術作品のように美しい「かき氷」でした。

同じく「定番かき氷」の「黒胡麻みたらし」は、見た目の印象をいい意味で裏切る濃厚なチーズ味。食べた瞬間、この意外性とおいしさに出会えた喜びがこみ上げてきます。

純氷の上には黒胡麻みたらし蜜、チーズクリーム、煎り胡麻、練乳ミルクが。

食べ進めると、中にはこし餡、きなこ、食感が楽しい胡桃が隠れていました。

お皿の上で溶けたあともおいしくなるよう計算された食材のバランスはお見事。最後の一滴まで飲み干したくなる一皿でした。

「練りたて温蕨もち」で、本わらび粉の香りにひたる

ラストを飾るのは、本わらび粉と水、黒蜜のみで作ったシンプルなわらび餅に、国産きな粉や抹茶の香り漂ううぐいすきな粉をかけた「練りたて温蕨もち」。

お好みで上から黒蜜をかけていただきましょう。練りたてならではのフレッシュなわらび餅と、きな粉や抹茶の香りを、思う存分堪能できました。

「甘味割烹コース」は西洋のアフタヌーンティーよろしく、こだわりのお茶を一緒に楽しめる点も魅力。先付けで「葉ほうじ茶」、一菓で「和紅茶」、一菓で「御抹茶」（上の写真）と、それぞれの献立を引き立てるセレクトが冴えています。

こだわりの日本料理の軽食と、上品で甘すぎず、それでいて唯一無二の甘味とお茶が織りなす一連の"フルコース"。食べ終わったあとは、まるで上質な小説を一冊読み終わったあとのように静かな感動に包まれたのでした。

Words: Riyua Joe（mogShore）　Photos: Takahiro Okamoto

2021/9/3

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