今回ご紹介するのは、シェフが生まれ育った岩手県の食材にこだわる大田区・久が原のイタリアンレストラン「DA BECCA」の看板メニュー、「DA BECCAのオムライス」です。とろとろのオムライスが、真っ白に輝くソースの海に浮かぶ姿は見ているだけで幸せになるほど。ファンの男の子が「百億万点」を付けたというエピソードにも納得です。

二つのソースの融合が生み出すベストバランス

真っ白なソースとキラキラ輝く半熟のオムライスからは、ほんのりとニンニクの香りが漂います。スプーンでソース、卵、ライスを一気にすくい口に運ぶと、一瞬戸惑ってしまいました。

ニンニク、キノコ、生クリーム、卵、鶏肉の濃厚な味わいが、どれも飛び出さず、まさに渾然一体の新しい味となってドカンと口の中に広がります。

チキンライスの鶏肉は岩手名産の彩菜鶏（さいさいどり）で、生姜と醬油の味付け。このチキンライスが様々なうまみを一つにまとめる役割を果たしているようです。

シェフのこだわりが生み出した独自の調味料

真っ白なソースは、シェフの前川広行さんが自ら仕込む「にんにくペースト」と「キノコペースト」がベースです。どちらも時間をかけて加熱することで食材のうまみを凝縮し、独自の手法でペースト状に仕上げています。

お店の料理の多くがこの二つの組み合わせで味付けされており、前川さんは「好きな味の調味料がほしいと思っているうちに、自分で作っちゃいました。店の味を支えている二枚看板です」と胸を張ります。

常連客の希望でペーストを瓶詰めにして持ち帰れるようにしたところ、大人気に。将来的には外部での小売りも検討しているそうです。

ファーストフードやファミレスがない街で

DA BECCAがあるのは、東急池上線の久が原駅の目の前です。駅前は多くの人で賑わっていますが、大手ファーストフード店やファミリーレストランがまったく見当たりません。

「出店前に周辺を調べて驚きました。ファーストフードやファミレスだけでなく、飲食業としてライバルになる寿司屋さんや焼き肉屋さん、イタリアンのお店もほとんどないんです」と前川さん。

ファーストフード店などがないのは、住む人にしっかりと愛されている住宅地だからこそ。そして最近は若い世代も流入して活気が増しています。来店する人も、30代～40代の家族連れが多いそうです。

「飲食店が少ないので、僕のお店がいろんなニーズに応えられる選択肢になりたいと思っています。晴れの日に家族でごちそうを食べる日も、一人で軽く飲みたいときも選んでいただけるお店でありたいですね」

おしゃれな内装の店内には、気軽に飲めるカウンター席と、家族でわいわい楽しめるテーブル席が用意されています。

人気の「生ハムのシーザーサラダ」といった前菜からパスタ、本格的なメインまでメニューは多彩。それにもまして、アルコールメニューはとても個性的です。

「あのマルゴ－と同じ畑のブドウを使っていて、コスパ最高です」と前川さんがイチオシする「メゾン・シシェル・マルゴー」（ボトル・12,000円）などこだわりのワインメニューがそろう一方、「DA BECCAのレモンサワー」はなんと660円です。

焼酎は飲んべえ御用達のキンミヤを使用。生のレモンとグラスの中の凍ったレモンの両方を楽しみ、飲み干したら「中」（追加の焼酎）を275円で注文。凍ったレモンを突き崩して堪能できるという、お酒好きにはうれしすぎるメニューです。

自由になって気づいた地元・宮古への思い

岩手県宮古市出身の前川さんは岩手の高校を卒業したあと上京。二子玉川近くのイタリアンレストランで15年間修行をしたあと、2020年に独立しました。

店名の「DA BECCA」は「～だよね？」といった意味の岩手弁で、「BECCA」はイタリア語でくちばしの意味にもなっています。お店のキャラクターはくちばしが特徴的なオオハシという鳥が務めます。

岩手への思いに気づいたのは独立を決め、どんなお店にするかを真剣に考えていたとき。「独立したら何の制限もなくなり、選べる食材も無限にある。そんなときに、自分の根っこである岩手や宮古の食材を使いたいという思いがわき上がってきたんです」

彩菜鶏や岩中豚といった岩手の地元食材を可能な限り使っているほか、冬場は知り合いの猟師さんが宮古の山で捕った鹿肉を送ってもらい、お店で提供しています。

中でもランチメニューの「鹿カレー」は提供を始めるとすぐに売り切れてしまうほどの人気ぶり。ほかにも「鹿の煮込み」や「鹿ステーキ」などを提供していますが、いずれも宮古から鹿が届いたときだけの限定メニューなので、味わえたらかなりラッキーです。

そんなお店を愛する地元の人々の中でも、オムライスが大好きだった男の子が先日、遠方へ引っ越したそうです。「引っ越し前日に家族で来て、『オムライス、百億万点だよ』って。本当にうれしかったです」

その子が大きくなってまたお店に来てくれる日のためにも、前川さんは東京の住宅地のど真ん中でオムライスに岩手愛を込め続けます。

Words: 言語化工房ぐり
Photos: 株式会社 KPS

2023/12/26

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