北海道の伝統的な保存食「新巻鮭（あらまきさけ）」の木箱を活かしたクラフト製品の数々。身近にあった鮭箱の価値に惚れ込んだ2人のクラフトマンからなるユニット「ARAMAKI」が、それぞれの匠の技を活かして世に送り出します。バッグや家具、楽器、室内空間まで、独創的なフォルムとデザインに強烈な個性とインパクトを感じるに違いありません。

役目を終えた木箱に惚れた2人のクラフトマン

「ARAMAKI」は、宮大工の村上智彦さん（以下写真左）と、ギター職人の鹿川慎也さん（同右）のユニット。北海道恵庭市を拠点にしています。

村上さんはかつて関西で寺社建築に携わっていましたが、2012年に出身地の恵庭市へUターン。居住のため古い家屋を2年がかりで自分の手で修復した際、さまざまな廃材を再利用したそうです。多々あった廃材の中の一つが、新巻鮭の木箱。木目の粗さと印字されているフォントや色使いに惹かれ、ちょうどお気に入りの鞄が壊れたこともあり、鮭箱のバッグを作ってみたのが一連の活動の始まりです。

「かっこいいから作ろう」と思ったものの、家族などまわりの反応はイマイチ。でも、鮭箱のバッグを仕事の打ち合わせで使い続けているうち、「面白いね」と言ってくれる人も出てきました。その中でも強烈に惹かれた人物が鹿川さん。2人はともに恵庭市出身のクラフトマンですが、元々はお互い面識はないうえ仕事上の接点もなく、共通の知人を介して知り合いました。鹿川さんが村上さんのバックを初めて見た時、「なんですか、これは！」と衝撃を受け、ウクレレを作ってみることになったそうです。

はじめはお互いに好きなものを作って見せ合うだけでしたが、2016年に東京で展示会をすることになったのをきっかけに、「ARAMAKI」というユニット名をつけました。

あるから使い、使えるから活かし、好きなものを作る

「ARAMAKI」が注目する素材、鮭箱の元々の用途は鮭の輸送。鮭から出る水分を適度に吸収し、鮭の重量にも耐えながら何段にも重ねることができる優れもので、食材輸送には段ボールや発泡スチロールがあたり前の現代でも、鮭の輸送では比較的木箱が重宝されています。材料は、北海道産のトドマツの間伐材。使い込むほど色艶に深みが増していくそうです。

ただ、鮭の木箱は適度に水分を吸収するゆえに、湿度によって木材が膨らんだり縮んだりします。家具などはもちろん、音色に影響する楽器にとっては非常にデリケートな問題です。楽器は一般的に広葉樹が使用されウクレレは主にマホガニ製ですが、鮭箱は針葉樹。針葉樹は湿度による収縮幅が大きく日々の手入れや空調管理など取り扱いに神経を使いますが、作り方や構造を工夫すると広葉樹には感じられない柔らかくてやさしい音が響くそうです。一流ミュージシャンも見た目の斬新さと独特な音色に魅せられ、「ARAMAKI」の楽器を愛用しています。

鮭の輸送に何度も使われて廃棄される運命の木箱に、再び息吹を与えるのが2人のミッション。
箱ごとに異なる木目や色艶、印字された文字の風合いなどを見極め、いかに新たな作品を生み出すかが各人の腕の見せ所です。
村上さんはバッグなどのほか家具や居住空間など大型の製品も作るため、貼り合わせたり組み合わせたりしていかに強度を保った構造物にするかという方向性ですが、鹿川さんはギターやウクレレに加工するため、印字されていない片面だけをいかに薄く削ったうえで収縮しづらく響く板にするかというスタイル。鮭箱を活かすといっても2人のアプローチは真逆、だからこそ面白いのかもしれません。

鮭箱という「お題」に対して自分たちが持つ技術でどう切り返すか。その答えが、「ARAMAKI」のクラフト製品の数々です。使用済の鮭箱が身近にあるから使ってみる。使えるから個々の素材を活かし、自分たちの好きなものを作ってみる。こうして生まれたクラフト製品の数々は独創的でありつつも、ありふれたものの価値を再発見し日々の暮らしを豊かにするきっかけとなるアイテムです。

面白がって支えてくれる人たちがいる

「ARAMAKI」は2人のユニットですが、この活動を面白がって支えてくれる人たちがいます。そのうちの一人が、近年他界した釧路市にある魚箱メーカーの社長。水産加工会社をはじめさまざまな関係者を紹介してくれたほか、「ARAMAKI」の第一号オリジナル製品「いくらティッシュケース」の製造を快諾してくれました。使用済の木箱から作った再生製品ではなく、実際のイクラの箱の新品を活用した商品。「イクラを入れないイクラの箱、初めて作ったよ」と言いながらも2人の活動を応援してくれたそうです。

「ARAMAKI」自身でも、新巻鮭を食べながら新作のお披露目をするイベント「シャケサミット」を毎年開催し、鮭箱とその周りに関係する人たちとのつながりを深めているほか、近年は展示会やイベントへ出展する機会も増えているそうです。次回は2021年2月～3月に東京都内で展示会を開催予定。ぜひ訪れてみては？

鮭箱に惚れ込んだ2人が編み出す、新しくもあり味がある作品の数々。手にするときっと、身近にあるありふれたものの価値を再発見し、日々の暮らしと心が豊かになるに違いありません。次はみなさんが面白がってこの活動を支える番かもしれません。

Words: Nobuka Kawashima　Photos: ARAMAKI、Toru Tanaka

2020/11/17取材
2021/3/26編集

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