乾燥が気になる季節、傍らに置いておくだけで潤いとヒノキの芳香をもたらしてくれるアイテムがあります。岐阜県大垣市の特産物・枡の製造技術を活かして作られた、ヨット型の「エコ加湿器 MAST（マスト）」です。電源は不要で、国産ヒノキでできたボートの部分に水を注ぐだけ。どんな部屋にもマッチするシンプルなデザインも魅力です。

日本一の名産地・大垣で職人が手掛ける"枡"

岐阜県大垣市、大垣城のある大垣公園から少し西へ進んだ水門川沿いに、「エコ加湿器 MAST」を作っている枡工房枡屋のショップ（桝工房ますや）兼工場があります。

大垣市は、日本の伝統的な道具である"枡"の生産量全国シェア80％を誇る日本一の名産地。枡は米などの穀物や酒・油など、食料を測るための容器として1300年以上使われてきた、日本の伝統的な道具です。大垣では明治23年（1890年）頃に1人の枡職人が作り始めたとされていて、長野県木曽地方や岐阜県東濃地方などのヒノキの産地から近く、西日本に運びやすい交通の要衝にあるという条件も、枡の製造を後押ししたようです。

ショップ内には記念品や贈答用の正統派の枡から、ちょっと変わった枡、小物としてアレンジされた枡など、バリエーション豊かな商品がずらりと並んでいました。

枡を製造する工場の様子を見せていただきました。
枡は建築や建具に使うヒノキの端材（切れ端）を利用して作るので、そもそもがエコなアイテムです。

仕入れた木材を乾燥させるところから始まり、板を切り、溝（ほぞ）を掘って、側面の4枚の板を組み合わせ、底板を付け、表面を研磨し、文字の彫りや塗装を施して仕上げる......。長い工程を丁寧にたどり、熟練の職人さんたちが一つ一つ仕上げていきます。手際のよさと手先の動きの繊細さに見とれてしまいました。

廃材を活かすために考え出された商品

枡工房枡屋を運営する大橋量器の代表取締役・大橋博行さんにお話を伺いました。
「枡作りの工程では大小さまざまな形のかんなくずが大量に排出されるのですが、これを何かに利用できないかということで考え出したのが『エコ加湿器MAST』でした」。
なんと、最初から開発の目的が本来廃棄されてしまうものの活用だったとは、サステナブルな商品ですね。

そして、ヨットの帆の部分に大きめのかんなくずで作ったヒノキの経木（紙のように薄く削った木の板）を使い、下のボートの部分に貯めた水を経木が吸い上げ、自然気化させる形の加湿器になりました。
「水を入れる部分は枡のように木組みしています。ボートを模した台形にしていますが、普通の枡にはない形で、この商品のために初めて作った形でした」。

実際にボートの部分を手に取ってみると、ヒノキの板がピシッと隙間なく組み合わさり、表面の手触りはつるつる。磨かれてピカピカです。素人目にも技術の高さがわかります。
ヒノキがほのかに香るのも素敵です。独特の芳香には爽快感と癒しを与える効果があるといいます。またヒノキには抗菌効果があり、耐水性が高いため、枡などの水回りの道具の材料に適しているのだそうです。

「エコ加湿器 MAST」は電力が不要で、コードがないのでどこにでも置けるのも便利です。使うのはヒノキの木材と水だけですから、小さな子どもやペットがいる環境でも安心。構造がシンプルなのでお手入れも簡単です。洋・和室選ばず、どんなお部屋にも合うデザインなのもうれしいですね。

SMLの3サイズがあり、交換用セイル（帆の部分）も販売しているので、水の吸い上げが悪くなったら、取り換えればまた使えます。

「エコ加湿器MAST」を販売開始したのは2010年。時代を先取りしたサステナブルな商品は年々評判を呼び、「OMOTENASHI SELECTION」（商品部門金賞、インテリア・ファッション）や「サステナブル★セレクション第3期」の★（一つ星）を受賞しています。

「販売数は毎年増えていますね。特に近年はコロナ禍もあっておうち時間を大切にする需要からか、2020年は年間で550個を出荷しました。ご自身で使われる方が多いですが、引っ越し祝いなどのプレゼントでのご購入もあります」。

ちなみに枡工房枡屋では、枡にバスソルトを詰めた「Math salt（マスソルト）」、木製の冷凍ご飯容器「COBITSU（こびつ）」、枡コースターなど、枡製造の技術を活かした新たな商品を次々に生み出しています。伝統の技は保ちながらも、守りに入らずチャレンジしていく気風を感じました。

光に透けて見える経木の木目の美しさ、国産ヒノキの温かみと芳香が魅力の加湿器。
自宅でのリラックスタイムやテレワークのお供、大切な人への贈り物にしてみてはいかがでしょうか。

※注文後に熟練の職人が一つずつ作るため、商品到着まで約1カ月半かかります。
※在庫がある場合には、すぐに出荷となります。

words : Yuki Asakura
Photos: Isamu Shinoda

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2022/1/12取材
2022/4/8編集

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