平安・鎌倉期から続く日本六古窯のひとつに数えられる信楽焼は、1976年に国の伝統的工芸品として認定。大物づくりと素朴な表情に定評のある信楽焼には茶碗や花器、置物、タイルなどの多彩な製品があるなか、全国的によく知られているのがヤマ庄陶器などが手がける「福々狸」です。愛くるしい表情の狸は手のひらサイズから大人の人間くらいまでという多彩なラインナップ。笠、大きな目、笑顔、大きな腹、徳利、通い帳、金袋、太いしっぽという特徴は、「八相縁起」と呼ばれる8つの縁起を担いでいます。

日本文化の発信拠点として、サブカルチャー、アート、クラフト、ファッションなど、あらゆるジャンルで日本の魅力を紹介している「BEAMS JAPAN」。そのバイヤー兼ディレクターを務める鈴木修司さんは、1年を通してほぼ毎週日本中を飛び回り、各地の名物、工芸品の数々を再評価するべく独自の切り口で紹介しています。「プロダクトとともにその産地やつくり手、素材、歴史、文化といった、"背景"すべてをお客様に届けたい」という鈴木さんがおすすめする、知られざる日本の銘品を紹介する連載を、全6回にわたってお届けします。

最終回で紹介するのは、ヤマ庄陶器の「福々狸」です。かつては日本全国のロードサイドで見ることのできた置物は、実はかの有名な信楽焼なのだとか。"昭和"の香りがするこの置物に、鈴木さんが注目したのはなぜなのでしょうか？　そしてBEAMS JAPAN流に生まれ変わった狸に込められた、十相縁起の願いとは？

「僕は三重県出身で、お隣の滋賀県信楽町にはよく遊びに行っていました。だから狸の置物のことよくは知っていましたし、野ざらしで置いてあるために誰かが夜こっそり持って行ってしまっても、わからないくらいぞんざいに扱われているのも気になっていました。
巷ではこけしや招き猫がちょっとしたブームとなっているなかで、狸の置物にだけスポットライトが当たらないというのは、なんだか可哀想......。それに人々が振り返りもしない存在になっている置物をBEAMS JAPANで売れるものにできたら、意義があるなと思っていました。僕にとっては純粋なチャレンジだったんです。決して狸が好だったわけではありません。これまで県や市との協力によって製品化された商品も紹介してきましたが、これに関しては滋賀県や信楽町からの依頼は何もない。おせっかいにも僕が勝手につくってしまったものなんです（笑）。
BEAMS JAPAN流にアレンジすることによって、狸の置物をもう１回流行らせたい。でもデザインは完成されているから、基本的には変えたくありませんでした。そこでBEAMSのコーポレートカラーであるオレンジ色を使ってみたらどうかと考えました。オレンジは日本語でいうと橙（だいだい）色。つまり、代々（だいだい）栄えるという縁起のいい色です。だから伝統的に、鏡餅とか、しめ縄にも使われているんですね。狸は他抜き（たぬき）というわけで、他所よりも繁盛するという意味合いがあります。狸の置物は"八相縁起"という通り、大きな目は物事をしっかり見定めるように、大きな腹は何事にも動じないように、帳面は信用を得られるようになど、８つも縁起を担いでいる。日本の高度経済成長時代にふさわしい、とっても欲張りな縁起物なんです（笑）」（鈴木さん）

「８つの縁起に加えて、他を抜くほどの商売繁盛、いっそのことさらに欲張って、橙（だいだい）まで加えた十相縁起にしてしまったというわけです。晴れて売り出して３年近く経つのですが、すでに大小合わせて3,000体以上が売れています（別注 信楽焼 オレンジ たぬき大 6,930円）。いまではお洒落なインテリアショップなどからも、狸の置物の注文が入っているそう。これも産地の活性化に一役買えたと、胸を張れる商品ですね。
いまにして思えば、欲張りな昭和時代の郷土品というのがよかった。僕は江戸時代から続くこけしも、昭和の新しい狸の置物も、同列で扱いたいんです。古いからいいわけではなく、時代ごとの文化を象徴していれば、新しくてもいいじゃないかと。狸の置物は焼き物としては決して上等なものではないし、由緒正しいものでもありません。信楽は日本六古窯のひとつであり、人間国宝の方もいるくらいの名産地。でも大衆的な狸の置物をつくる窯元さんも、人間国宝のつくる抹茶碗も、僕の中では等しく日本の文化を発信するものだととらえているんです」（鈴木さん）

ヤマ庄陶器の製品は取扱いECサイトにてオンライン購入が可能です。なお、ご購入のECサイトによって、ご案内の単価と異なる場合がありますので、ご留意ください。


鈴木修司 プロフィール
1976年生まれ。1998年「株式会社 BEAMS」入社。「BEAMS MODERN LIVING」の店舗スタッフ、「fennica」のMD、「B:MING LIFE STORE」の生活雑貨担当バイヤーを経て、2016年にオープンした日本文化の発信拠点『BEAMS JAPAN』のバイヤーとして1階「銘品」フロアのディレクションを担当。現在はバイヤー兼ディレクターとして、国内の銘品や工芸を紹介するフロア全体のディレクションを手がけている。

2020/1/6取材
2021/3/26編集

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