コンセプトは"好事家の書斎"。秘密の隠れ家のようなライブラリーバーが銀座の地下にひっそりと広がっています。その名も「BAR十誡（じっかい）」。3,000冊以上の蔵書と美術作品に囲まれながら、アンティークのソファでゆったりと読書ができ、日本が誇る文豪たちの名作からインスピレーションを得たカクテルやモクテルを嗜める場所。本当は人に教えたくない、くつろぎの空間と唯一無二のオリジナルドリンクをご紹介します。

初心者でも楽しめる特別なBAR体験

文学と美術をこよなく愛するオーナーが始めた「BAR十誡」は、開業から9年目を迎えます。読書好きの方、仕事終わりの一杯に訪れる方、銀座の観光に訪れた海外の方など、お客さんの顔ぶれもさまざまだといいます。ひとたび足を踏み入れると、壁一面を飾る圧巻の書棚と、西洋のアンティーク家具が並ぶ美しい空間に、驚かれる方が多いそう。

書棚に並ぶ蔵書は数えられるだけでも3,000冊以上に及ぶといいます。時代を超えて愛され続ける文豪たちの日本文学や、貴重な美術書や写真集、海外の絵本など。関連する本が近くに並んでいるので、自分が好む作品から、思いがけず別の作家の世界にも迷いこめるかもしれません。

書棚の一角には、「サーカス」や「汚れつちまつた悲しみに......」などで有名な詩人・中原中也のコーナーが。マルキ・ド・サドやジャン・コクトーらの仏文学の翻訳、人間の本質に迫るエッセイや小説などで多くのファンを魅了した澁澤龍彦のコーナーもあります。公開中の映画のタイアップドリンクや、文学作品をモチーフにしたドリンクがメニューに新しく登場するタイミングなどは、書籍の並びも変化するそう。

「書棚にある本は自由に手に取っていただき、ドリンクと一緒にソファでお楽しみいただけます。通常のBARやカフェのように店内での会話もOKですが、『十誡（＝十戒）』という名前にちなんで『他の方の嗜好や趣味などを荒らさない』という部分だけご配慮いただきたい、というのがオーナーの願いです。世界的に注目を集める美術家・空山基をはじめとする作家の美術作品などもご覧いただきながら、神秘的な雰囲気を堪能していただければと思います」（スタッフ門脇さん）

定番のティーセットと文豪モクテル

では、「BAR十誡」で人気のドリンクメニューをいくつかご紹介します。定番メニュー以外に、季節に合わせた書籍や、文豪の誕生日や命日にちなんだオリジナルメニューが登場します。

「ルイス・キャロル『アリスのミニチュアティーパーティ』」（2,860円）は、カフェタイム限定のティーセット。アリスの世界に迷い込んだ気持ちで楽しめるミニチュアサイズの食器に、季節の紅茶とスイーツが並びます。思わず写真に残したくなる、愛らしいアフタヌーンティーメニューです。

こちらは、「宮沢賢治『ケンタウル祭の夜に』」（1,980円）というモクテル。真っ青なバタフライピーティーに金粉のトッピングは、まさに銀河鉄道が走る宇宙空間のよう。沿えられたラベンダーレモネードを注ぐと、あっという間に紅色が広がって味も変化します。
銀河ステーションにある星のカケラをイメージした蓄光石は、お土産として持ち帰れるのだとか。カクテルをご希望なら、ウォッカベースの「ケンタウル祭の夜に〜銀河鉄道の夜〜」（1,980円）を。

定番の「檸檬」カクテルと春の新作も

筆者の今日のお目当て、梶井基次郎の短編小説「檸檬」をモチーフとしたカクテルを注文しました。アールグレイの紅茶リキュールに、フレッシュなレモンのスライスがたっぷり入ったスパークリングティーカクテルは、上質なレモンティーがそのままお酒になったような豊かな味わいを楽しめます。

春から夏の季節にぴったりの清涼感は、一杯目におすすめです。一気に飲み干してしまいそうになる気持ちを抑え、小説を片手にゆっくりと味わいたい。ノンアルコールでの注文も可能です。

そして4月からは、ルネサンス期に活躍した画家ボッティチェリの作品をモチーフとしたカクテル（2,310円）が期間限定で登場。代表作「春（La Primavera）」に描かれる、花の女神フローラへのオマージュとして、オレンジやザクロの果実味たっぷりのカクテルと色とりどりの花びらで気分が華やぎます。

そのほか、モンゴメリによる不朽の名作「赤毛のアン」をイメージしたりんごのスパークリングカクテル（2,310円）と、平日限定で太宰治をモチーフとしたアフタヌーンティーコース（5,500〜7,700円の3コース）が開催中。春の高揚感に包まれながら、至福のひとときを過ごせるでしょう。

ウイスキーやアブサンの種類も豊富なBAR

アブサン好きのオーナーということもあり、酒棚には世界各地のアブサンが並びます。ニガヨモギやアニスなどのハーブを原料とするアブサンは、別名"緑の妖精"とも呼ばれ、ゴッホやピカソなど多くの芸術家を魅了したお酒といわれています。さらに店内には、ウイスキーの取り揃えも豊富。ジャパニーズウイスキーの流行で、海外から訪れるお客さんからも喜ばれるそう。

気になったお酒や文学作品についてバーテンダーに尋ねてみると、まだ見ぬ歴史や知識に触れられるかもしれません。「BAR十誡」に広がる神秘的な空間と美酒を通して、文化との一期一会を楽しんでみては。

Words: Satoko Muroga
Photos: Masahiro Muramatsu

2024/3/11

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