世の中はここ数年、空前のサウナブーム。日本だけでなく、サウナの故郷フィンランド、さらにはロンドンやパリでも、若い世代が新たな感性でとらえ直したサウナが人気を博しています。とはいえ、ロウリュ（サウナストーンに水をかけて蒸気を発生させること）や、心地よい外気浴が楽しめる環境などが揃ったフィンランド式の湿式サウナを備えた施設はまだまだ稀。そんななか、本場さながらのサウナ体験を自然の中で満喫できる施設として熱心なサウナーたちが集まっているのが、長野県の野尻湖畔にある「ゲストハウスLAMP野尻湖」に誕生した「The Sauna」です。

アクティビティ愛好者のための宿がサウナーの集う場所に

「ゲストハウスLAMP野尻湖」（以下LAMP）は、1982年にカナディアンカヌー愛好者のための宿泊施設としてオープンした「サンデープラニング ロッジ グランピア」を、もともとの風情を大事にしつつアップデートしたもの。現在も、カヌーやカヤック、スノーシューハイキングなどといったアウトドアのアクティビティを楽しむ人々の宿、遊びの拠点として愛されています。そんなLAMPに「The Sauna」をつくったのが、サウナの支配人、野田クラクションベベーさんです。

LAMPを運営しているLIGは、サンデープラニング ロッジ グランピアを立ち上げた吉原宜克さんの息子、吉原ゴウさんが2007年に創業したウェブ制作会社。野田さんは入社1年目に「ひとりで軽自動車を運転し、日本一周の旅をしながらブログの発信をする」という任務を担当するなかで、サウナより先に水風呂の魅力にはまったのだといいます。

「四国ではクルマを置いてお遍路をすることになったんです。夏の最中に徒歩と野宿。日焼けはひどいし暑いしで、めちゃくちゃキツかったんですね。4日お風呂に入れなかったある日、高知県のとある温泉施設にたどり着き、プールに入る気分で水風呂に入ったら、これが本当に気持ちよくて。体がクールダウンされて、4日間の疲れが吹き飛んだように思いました。さらに、暖かいサウナと水風呂に交互に入ると、サウナ用語でいうところの"ととのう"感覚が得られて。それ以来、水風呂入りたさにサウナに足繁く通うようになりました」

心身が"ととのう"、フィンランド式サウナの魅力

"ととのう"というのは、サウナ浴によって深いリラックスを得られた状態のこと。サウナの効果にはまだまだ科学的に解明されていない部分はあるようですが、その気持ちよさに多くのサウナーたちが取り憑かれています。

東京に戻ってからもあちこちのサウナに足を運び続けた野田さんは、仕事とサウナを結びつけるべく、まずは会社の運営するブログでサウナの魅力を発信。社内にサウナ部をつくり、最終的に「LAMPにサウナをつくりたい！」という結論に至ったそう。

「2015年から始まった日本最大級のサウナイベント『SAUNA FES JAPAN』のチケットが瞬時に完売するなど、ますますブームが加速しているという追い風もありました。2018年6月に決意して、7月に社長にプレゼン。その次の週には社長を連れてサウナの本場フィンランドに行き、設置の許可を取り付けました。お金はあまりかけられないため、まずはクラウドファンディングで支援金集め。これが成功し、2019年2月に『The Sauna』を無事オープンすることができました」

野田さんがこだわったのは、本場フィンランドで体験したような、野外で心地よいひとときを楽しめるサウナにすること。無煙薪ストーブを熱源とし、ロウリュによって室内の温度を調整できるようになっています。石はフィンランド産のサウナストーン。小さなログハウスのサウナの外には、ひとり用の水風呂もふたつ用意されています。夏場であれば、そのまま歩いてすぐそばの野尻湖に入ることも可能。外気浴をしながら飲み物などを楽しむための寝椅子も並べられています。

「日本のサウナのほとんどは温度が90度程度の乾式サウナ。また、男性用が中心で、女性たちが楽しめるサウナは長い間ほとんどありませんでした。ここはフィンランドのものと同じ湿式サウナで、男女共用。水着を着て入っていただくかたちですが、大判のバスタオルのレンタルもありますし、貸切もできますので、ご家族やお友達同士、カップルなどでお楽しみいただくこともできます」

本場さながら、香り高い「ヴィヒタ」で血行もアップ

照明も下向きにしてあるので、女性も気分的に安心。パチパチと薪が燃える音に耳を傾けながらじんわり温まっているうちに、体の芯から癒されていきます。吸気口と排気口の高さを変えてログハウス内の空気が対流するようにしてあるため、息苦しくなることもありません。サウナ内には、フィンランドのサウナではおなじみの、葉付きの白樺の枝をまとめてつくった「ヴィヒタ」も。これで体を叩くと血行がよくなるほか、いい香りが楽しめ、スキンケア効果もあるといわれているもので、八ヶ岳でヴィヒタづくりをしている人から購入しているのだそうです。一方、外でまどろむときにはレストランのドリンクや、炭酸飲料のガラナをスポーツドリンクで割った特製のサウナドリンク「ガララ」なども注文できます。

サウナで"ととのった"あとは、LAMP自慢のレストランで食事を楽しむのも一興。昼は本格的なハンバーガーが、また夜はラムチョップやピザなどをはじめ、幅広いメニューが揃います。

「料理には力を入れているので、宿泊やサウナのお客様のほか、近隣の方のご利用も多いですね。お酒も、しなの鉄道北しなの線の黒姫駅前にある萬屋酒店さんから多彩なお酒を仕入れているので、料理と一緒にお楽しみいただければ。長野のワインや日本酒、クラフトビールもご用意していますよ！」

冬場に雪の中でサウナを楽しむなど、ほかでは得られないサウナ体験ができる「The Sauna」。柔らかな蒸気と冷たい水、そして美味しい空気で、心と体の芯からリフレッシュできます。北陸新幹線を使えば都心からも3時間程度なので、ぜひ一度足を運んでみてください。季節ごとに表情を変える野尻湖の自然と暖かなサウナが、優しく迎えてくれるはずです。

Photos: Hiroshi Nakata　Words: Shiyo Yamashita

2019/10/31取材
2021/6/24編集

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