近年、目まぐるしく進化する東京の中でも、最も注目の街「兜町・茅場町」。この国の金融マーケットの生誕地として、資本主義のエンジン的な役割を昔も今も担っています。東京証券取引所をはじめ、近年は「証券の街」として機能していて、きっちりとしたスーツに身を包んだ証券マンが闊歩する街として栄えています。しかし現在は「兜町・茅場町再活性化プロジェクト」が進行中で、新たな「にぎわい」を創出すべく、街が生まれ変わりつつあります。ロンドンで創刊されたシティガイド『Time out』が選ぶ「世界で今最もクールなエリア40選」に、日本で唯一選出された今の「兜町・茅場町」の魅力を、新たなシンボル「K5」を中心にたどっていきます。

100年前のビルをフルリノベーション

商業施設が建ち並ぶ、にぎやかな東京駅周辺や日本橋から昭和通りを渡り、兜町・茅場町エリアに一歩入ると、雰囲気が変わります。銀行や証券会社など歴史を感じさせる重厚な石造りのオフィスが中心で、派手な商店は少なく、しっとりと落ち着いたヨーロッパの街中にいるかのようです。その一角に佇むのが、2020年の２月にホテルを中心として誕生した複合施設「K5」です。建物のルーツは100年ほど前に、国内最初の銀行となった第一銀行の別館として建てられたもの。ホテルとして開業させるにあたり、フルリノベーションがなされました。耐震補強などを施しつつ、当時の意匠やデザインの魅力を再現しながら、現代的な空間としてよみがえらせています。内装デザインはスウェーデンの建築家パートナーシップ「Claesson Koivisto Rune」が担当しています。

客室は建物の２階から４階部で全20室と、小規模なだけに静かで落ち着いた滞在が約束されています。「都市における自然との共存」をテーマにデザインされた客室には、グリーンが各所に配置され、アナログのレコードプレイヤーが用意されるなど、シンプルで上質な空間となっています。滞在中はリラックスしながら、緩やかに五感を満足させることができます。
1階には、質の高いコーヒーを提供する話題のコーヒーショップ「Switch Coffee」、ワールドワイドで最先端のレストランテイストを持つ目黒「Kabi」の新店舗「Caveman」、図書館とBarが一体化したサロン「Ao」、地下にはビアホール「Brooklyn Brewery」の世界初となるフラッグシップ「B」もあります。いずれもスタイリッシュな空間で、最旬のトレンドを満喫させてくれ、海外のホテルに来たかのように、心身や感覚をリセットできるでしょう。日本と、ワールドワイドでの最先端を同時に感じさせる空間は、変わりゆく東京の中でも、特異なものだと思います。ホテルにステイしても、あるいはレストランなどを利用するだけでも、新たな境地を開いてくれるでしょう。

街全体で新たな「にぎわい」を創出する

ホテルだけでも十分に刺激的で、ホスピタリティを感じる空間ですが、外に出て兜町・茅場町の街を歩くのも興味深いです。昔ながらの街の良さを活かしながら、話題の店が周囲に点在しています。例えば、長年うなぎ屋さんとして、この地の人々に愛されてきた老舗をリノベーションした建物には、世界的に注目される新進のスウェーデン・ブルワリー「オムニポロ」が入り、さらに近隣には本場フランス各地や国内の名店で研鑽を積み、注目を集める気鋭のパティシエ大山恵介さんの「パティスリーイーズ」など、エッジのきいたシェフや経営者の店が誕生しています。最新の大型施設内にすべてを詰め込まず、歴史を活かしながら街全体で「にぎわい」を創出しているのが、この再活性化プロジェクトの面白いところです。

「ツナグ店舗」で週末にも人がくるエリアに

「この街のアイデンティティは、『日本資本主義の父』や『実業の父』と称せられた渋沢栄一の精神にあると思っています。始まりからして最先端を行くベンチャーな街だったのです。エリアとしては小さいですが、個性を活かした街づくりで、休日でも賑わいが生まれるのを目指しています」と語るのは、この街の開発プロジェクトを手がけている平和不動産の伊勢谷俊光さんです。

まずオフィス中心であった街の中心に、「K５」を誕生させ、「ビジネス以外の目的を持って来てもらえる」場所としました。そして「ツナグ店舗」として国内外の個性あるプレイヤーたちの店を誘致・オープンさせました。「このエリアは日本橋川などが流れていて、橋に囲まれた街です。橋は何かと何かをつなぐもの。そのイメージにもひっかけて、個性あふれる店舗が"つながる"ように、街の要所要所に誘致させました。さらに2021年の夏にはランドマークとなる『KABUTO ONE』も開業します」。
茅場町駅直結となる「KABUTO ONE」は大規模なホールも備えたオフィス複合ビルとなります。他にも東京都が推進する「国際金融都市・東京」構想を担う資産運用会社やベンチャー企業の入居する「Fin GATE」も開業。大型施設以外でも、カフェでありながらセミナースペースやビジネスサロンを備え、ビジネスユースに長けた「カフェ サルバドル」なども誕生しています。核となる大型ビルにも、細部となる小さな店舗にも、新たな感性で息吹を吹き込んだ「兜町・茅場町」。ビジネスマン以外にも、開かれた場所に生まれ変わり、誰にとっても刺激に満ちた街に感じられます。この街にステイして、魅力的に変化する街の様子に、五感を揺さぶられてみてはいかがでしょうか。

Photos: 平和不動産、Hiroyuki Joraku　
Words: Tomohiro Tsuchiya @ Yellowjam

2020/12/16取材
2021/6/24編集

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