宝石のように煌びやかで、童話のプリンセスのようにチャーミング。「ラトリエ ア マ ファソン（L'atelier à ma façon）」の「グラスデザート」は、そんな誰もが見惚れてしまうような魅力があります。
「ラトリエ ア マ ファソン」は、世に溢れすぎてしまっている「パフェ」とは一線を引き、追求するのは「グラスデザート」という独自のクリエイティブです。

そんな孤高の美意識を体感すべく、筆者はお店を訪ねました。

異国のようでどこか懐かしい、ドラマティックな店内

「ラトリエ ア マ ファソン」が店を構えるのは、東急大井町線・上野毛駅。駅からすぐの静かな通りにふと現れ、一見なんのお店なのかわからない、不思議な佇まいをしています。

シャビーな扉をゆっくり開いてみると......なんということでしょう。

古き良き時代のヨーロッパにタイムスリップです。

お店の名前である「ア マ ファソン」は、フランス語で「私の方法で」という意味。
入店にも独自のルールがあり、「中学生以下の子どもの入店禁止」「入店は2名まで」「大きな声の会話は控える」など少々の制約はありますが、店内は穏やかな雰囲気です。

厨房には、オーナーシェフ・森郁磨さんの姿が。 森さんは「ホテルニューオータニ」やうどんとパフェの店「中野屋」を経て「ラトリエ ア マ ファソン」をオープン。
もともとは、パフェ自体にまったく関心がなかったそうです。

そんな森さんがパフェを手掛けるようになったきっかけは「中野屋」から。オーナーではありませんでしたが、お店のことをほぼ全て任され、パフェのメニュー開発に明け暮れたといいます。
「パフェが好きではなかったからこそ、好きになるためにはどうしたらいいか、死に物狂いで考えぬいた」とのこと。一途で研究熱心なお人柄が伺えます。

夏を代表する、2つのグラスデザート

さて、待望のグラスデザートとご対面です。

一品目は、年間通して人気の「ピュイダムール」のグラスデザート。ピュイダムールとは、パイ生地の器にカスタードクリームを詰めて、表面をキャラメリゼしたお菓子のことですが、「ラトリエ ア マ ファソン」のピュイダムールはパイ生地をグラスの中に敷くスタイルです。

季節ごとに使用するフルーツが異なり、夏のこの時期はマンゴーが主役です。

エレガントなお皿は、教会のゴシック建築がモチーフ。グラスデザートとの相性も抜群です。

いただいてみると、マンゴーの力強い香りがわっと口の中に広がります。下層からは、サクサクのパイ生地、上品なアールグレイのアイス、チェリーとフランボワーズのコンポート、クリームチーズなど、次から次へと素材が出てきます。緻密に計算された味はどこを切り取っても美味しく、「アメイジング！」としか言いようがありません。

二品目は、取材日の前日に登場したばかりという新メニュー「"Macédoine de fruits d' été "フレッシュの桃とソルベ、ジャスミンアイスと抹茶 貴腐ワインジュレに溺れた色々なフルーツのマチェドニア風デザート」（3,630円）です。調理の様子も少し覗かせていただきました。

丁寧に、繊細に飾り付けられていきます。

くるりと舞うドレスのような、桃と抹茶のグラスデザートが出来上がりました。

桃の花弁を慎重に崩して口に運ぶと、瑞々しい甘さが押し寄せます。

桃の下には、香ばしい抹茶クッキーと、柑橘系ハーブのジュレ。相反する食感の組み合わせが不思議とクセになります。

そして上層と下層を隔てているのは、厚めのホワイトチョコレート。スプーンで勢いよく突いて割らないと、下層には辿り着けません。美しいものに穴を開けるようで、少し罪悪感が......。最後は、アルコールゼリーと甘いフルーツたちが身も心も癒してくれました。

記憶に残る体験を届けたい

森シェフにとってグラスデザート作りは「自分の内側を見つめること」。そして、「ラトリエ ア マ ファソン」での時間が「経験として記憶に残ること」を意識しているそうです。

「自分のその日その日の感覚には、素直に生きていますね。どうやったら他と違うものが作れるんですか？とよく聞かれますが、あまり周りから影響は受けすぎずに、自分の内側から出てくるものがなにか、っていうのを問い詰めていけば、自ずと他と違ってくるのではないかと思います」（森さん）

「お店では、あえて"不便さ"や"理不尽"を楽しんでいって欲しいです。ちょっと入りづらい雰囲気とか、メニューに写真がないとか、種類が多くて迷うとか、食べるとき崩しにくいとか......。全部お膳立てされたものよりも、そういうちょっと苦労したものの方が、経験として記憶に残るはずなので。便利が良しとされる時代ですけど、一つくらいこういう店があってもいいでしょう？」（森さん）

美しいグラスデザートの背景には、自らの美学に忠実に生きるシェフと、それを体現するユニークな仕掛けがありました。

きっとここでなら、何気ない一日も、大切な思い出になるはずです。

Words：Yui Ichihara
Photos：Makoto Ozaki
2022/6/28

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