商品は、たった1種類のガトーショコラのみ。
ここまで思い切ったブランドだからこそ、勝ちとれた王座。

今や「ガトーショコラといえば、ケンズカフェ」といわれるほどの「ケンズカフェ東京 総本店」。「日本ギフト大賞2015 都道府県賞」など数々の受賞歴があります。

圧倒的な存在感をまとうまでの道のりには、大きな決断があったようです。

予約必須！完全限定生産のガトーショコラ専門店

東京・新宿御苑前駅から徒歩3分ほど、まるで童話に登場する「お菓子の家」のような外観が見えてきました。

店内はきらびやかなシャンデリアがお出迎え。充満するカカオの香りにも食欲をそそられます。
しかし、パティスリーでよく見かける「ショーケース」がありません。

「うち、昔はレストランだったんです。なのでショーケースもないし、売り場も狭いんですよね」と、オーナーシェフ・氏家健治（うじいえけんじ）さん。

氏家さんは都内の一流ホテルや有名会員制ラウンジなど、複数の高級飲食店での経験を経て、1998年に自身の店「ケンズカフェ東京」をオープン。当初は多彩な料理でもてなすレストラン＆カフェでしたが、その後ガトーショコラ専門店へと転向。数量限定・テイクアウト限定・商品は「特撰ガトーショコラ」のみという異例のパティスリーですが、グルメな芸能人を唸らせ、大手コンビニエンスストアとのコラボレーションや大手レシピサイト、ビジネス書籍の分野でも名を馳せる人気店となりました。

お店を訪れるお客さんは、公式サイトもしくは電話で事前予約した方のみ。およそ3分にも満たない滞在時間ですが、期待とワクワクに満ちた表情が伺えました。

多くを手放した先に生まれた逸品。はたして、どんな味なのでしょう。

「生感」と「独自のチョコレート」で作る、絶対的なガトーショコラ

高級感のある箔押しのパッケージに包まれた、ケンズカフェ東京の「特撰ガトーショコラ」。長さ約13cmと手土産にちょうどよいサイズ感です。

フォークをいれると想像以上の柔らかさに驚きます。それもそのはず、「特撰ガトーショコラ」は表面だけを軽く焼いただけで、中はほぼ「生」。一切れで繊細な食感のグラデーションを楽しめます。芳醇なカカオの香りとコクは、甘ったるさはなく品のよい味わいです。

「ちなみに、焼いた直後はこんな状態ですよ」と、寸前までオーブンの中に入っていたガトーショコラも特別に試食させていただきました。アツアツで、口にいれれば泡沫のように溶けていきます。

「生感を楽しんでいただけるのは、小麦粉を使っていないからです。チョコレート、卵、砂糖、バターだけでできていますから、しっかり焼かなくても、全部生で食べられます。また小麦粉でかさまししない分チョコレートも卵もリッチな量を配合できますし、グルテンフリーで体にも優しいですよ」（氏家さん）

またもう一つ大きな特徴は、イタリアの世界的なチョコレートブランド「DOMORI」創業者ジャンルーカ・フランゾーニがこのガトーショコラのために調合したオリジナルチョコレート「KEN'S BLEND CRIOLLO」を使用していることです。カカオ豆の品種の中で最も希少な「クリオロ種」を贅沢に配合し、チョコレートとしての深い味わいをもちながらも、重たい味わいにならない爽やかさが特徴。

こうしたこだわりの先にできた一品は、ギフトとしての需要が高く、さらに女性ファンを上回る割合で男性ファンが多いのだそう。おいしさはもちろん、一品だけという買い手を迷わせない販売スタイルも支持されているようです。

窮地に立たされたシェフの起死回生

「もともとは料理人だったんですけど、人生なにがあるかわかりませんね。きっと運命づけられたのでしょう」と、自身の人生を振り返りながら氏家さんはそうつぶやきます。

「ケンズカフェ東京」がレストラン＆カフェとして経営していた頃、業績悪化から廃業の危機に追い込まれました。そんな低迷の中、なぜかデザートとして提供していたガトーショコラの評判が飛び抜けてよかったといいます。

当時、世間のガトーショコラは「ほどほどの素材で作る」「作り置きを売る」が主流でした。一方ケンズカフェは、氏家さんが最上級品質と考えるチョコレートを使用し、焼きたての状態で提供。「特別なことをしているつもりはなかった」とのことですが、そのおいしさを気に入った一部のお客さんから「テイクアウトしたい」「誰かにあげたい」という声があがり、特別にテイクアウト用をお渡ししたのです。するとそのおいしさが評判を呼び、やがて一流芸能人のおすすめスイーツとして紹介されると一気にブレイク。これまでのサービスを潔く辞め、ガトーショコラ専門店へと舵を切ったのです。

廃業寸前の中、もう一つ起死回生の糸口がありました。それは「マーケティング」や「ブランディング」を学んだことです。SEO対策やネット広告、大学時代に学んでいた写真の知識も活かして魅力的なサイトや広告を作り上げていったところ、みるみる結果があらわれ、どんな選択も果敢に判断していけたといいます。

本物は伝わる。原点は、お客さまの「おいしい！」

経営的観点であらゆる変化を遂げた「ケンズカフェ東京」ですが、今でも原点には「こんなおいしいのを食べたのははじめて！」と喜んでくれたお客さんの存在があります。

「材料はどんどんブラッシュアップしていますし、作り置きをしたくないという気持ちは一貫して変わりません。僕は『本物のガトーショコラ』を作りたい。よい素材と作りたて、それが絶対においしいですから。やっぱり本物の味は、お客さんも気づいてくれます」（氏家さん）

世界に羽ばたくガトーショコラへ。夢は語ろう

「あと、夢を語るのも大事ですよ。個人店レベルでいうのも恥ずかしいですが、大手コンビニとのコラボも、いくつか本を出版できたのも、いろんな人に夢を語ったんです。こんなことやってみたいんだよね、とあちこち話していたら実現しちゃいました」（氏家さん）

そんな氏家さんの次なる夢は「世界展開」とのこと。今後がますます楽しみです。

これからチョコレートは本命シーズン突入。スイーツ好きなら一度は「ケンズカフェ東京」のガトーショコラを味わってみてはいかがでしょうか。

Words：Yui Ichihara
Photos：Yasuharu Hoshino

2023/11/27

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