旬の果実を使ったお菓子を届ける老舗製菓ブランド「旬果瞬菓（しゅんかしゅんか） 共楽堂」。看板商品は、果実まるごとを透けるほどの薄い求肥（ぎゅうひ）で包んだ繊細な和菓子「ひとつぶシリーズ」です。旬のおいしい時期に限定してつくられています。

おしゃれな見た目から映えブームに乗ったお菓子かと思われがちですが、同シリーズの原点は40年以上前。当時から続く製法で、現在はさまざまな果実を包んでいます。夏は「ひとつぶのマスカット」「ひとつぶピオーネ」などが人気ですが、秋冬に登場する珍しいぶどう「紫苑（しえん）」を使った「ひとつぶの紫苑」が気になります。ある理由から、おいしいぶどうなのになかなか売れなかったという「紫苑」。今は「旬果瞬菓 共楽堂」と農家さんの二人三脚で、じわじわとファンを増やしています。

その瞬間にしか味わえない果実を和菓子に

昭和8年に広島県三原市で創業した老舗製菓店「旬果瞬菓 共楽堂」。その名の通り、旬の果実を使った、その瞬間にしか味わえないお菓子を生み出すブランドです。

看板商品の「ひとつぶシリーズ」は、「旬果瞬菓」を体現するロングセラー菓子。創業者の芝伐久義（しばきり ひさよし）さんがおいしいと感激した、ぶどうを砂糖で包んだ山梨の銘菓から着想したのがはじまりだそう。さまざまな素材で試作するなかで、マスカットを求肥で包んでみたところ、これまでにないおいしさが生まれました。

はじめは三原市の伝統祭りである「やっさ祭」という商品名でしたが、平成5年に息子である　芝伐敏宏（しばきり としひろ）さんに代変わりした際に改名。東京進出をきっかけに地元以外の方にも魅力が伝わるようにと「ひとつぶの◯◯」にしました。都内百貨店の催事に出店したところ、まるごとの果実と和菓子の組み合わせが珍しいと話題になりました。

現在は全国の百貨店を中心に店舗を構え、手土産の需要に応えます。

希少価値の高いぶどう「紫苑」をまるごと味わう

「ひとつぶのマスカット」や「ひとつぶのピオーネ」のあと、2014年に誕生した「ひとつぶの紫苑」。「紫苑」は岡山の次世代を担うフルーツとして注力されていますが、栽培に手間がかかることと、他のぶどうに比べてまだ認知度が低いことから、生産量が限られている高級果実です。

特徴は、ハリのある長細い楕円形の果実と、芳醇な香り。また甘みが強く、果汁の多い品種になります。通常は夏〜秋に旬を迎えるぶどうですが、「紫苑」は初冬に旬を迎えます。

「とにかく香りの強さと、求肥でくるんだときのバランスがよくてとてもおいしい。また種もないのでいいところづくしです」と芝伐さん。口に入れると......パリッとした皮の食感の先に、瑞々しい果汁がパシャッと弾けます。和菓子にはあまりないユニークな食感です。

使用する「紫苑」は、お菓子として完成したときにちょうどおいしいバランスになるよう、あえて酸味が強いものが選ばれます。求肥につけた砂糖の甘さと果実の爽やかな酸味の絶妙なバランスを楽しめます。

勘違いされがちな極上の果実に光を

「旬果瞬菓 共楽堂」が「紫苑」の存在を知ったのは、「ひとつぶシリーズ」の評判を聞きつけて訪れたJA岡山・温室の担当者からです。「『紫苑』というとてもおいしいぶどうがあるけれど、思うように売れないのです。魅力を知ってもらうために一緒にお菓子をつくってもらえませんか」と相談されたそう。

「『紫苑』は冬にかけて旬を迎えるので、売り場に並べるとどうしても売れ残ったぶどうのようにみえてしまい、お客さまからの印象がよくなかったそうです。でも実際は、果実のまま食べても求肥で包んでもとてもおいしい味でした。これはぜひお菓子にしたい！と思いましたし、売れ残りではなくて今が旬です！とお客さんに伝えていかなければと思いました」（芝伐さん）

「ひとつぶシリーズ」は熟練の技術を持った職人が丁寧に手作業でつくります。極薄の求肥で一粒の果実を包み、砂糖をつけ、一晩乾かします。そうすることで外の求肥が少しパリッとした質感になるといいます。そして出来上がった状態を1個ずつチェックし、水分が出ているものや、お客さまの手に渡るときにも水分が出そうなものは弾き、よいものだけを選定します。一粒ごとの果実と向き合いながらできる「ひとつぶシリーズ」は、店舗によっては早々と完売することも珍しくありません。

生産者たちと運命共同体で歩む

「旬果瞬菓 共楽堂」のこだわりは、国産の素材を使うこと。そして、素材感がしっかりと伝わる味であることです。

「素材ガツン！と僕らは呼んでいます。いろんな素材を何層にも重ねてそのマリアージュでおいしいものをつくるタイプではなく、とにかく素材感をダイレクトに伝える。その素材が嫌いな人は食べられないレベルです」

こだわりを実現するには、農家さんとのコミュニケーションや信頼関係が欠かせません。また自然のなかで育つ農作物のため、想定外が起きることもあります。

「水害がひどい年がありまして、仕入れ先のピオーネ農家が大きな被害を受けました。ハウス内のブドウが全部泥水につかってしまい、当然商品には使えません。ショックでしたが、一番ショックを受けているのは農家さんです。ですが、『見舞金はいらん、そっちは大丈夫なんか』とこちらの心配をしてくれるのでがんばるしかないですよね。これからも農家さんと一緒にできることをやっていきたいですし、海外に日本の果物のおいしさを伝えることにも挑戦したいです」

マスカットやピオーネがない時期の代替品と思われるのでは、と不安もあったという「ひとつぶの紫苑」。今となっては毎年紫苑をめがけて販売を心待ちにしている人がいるようです。

今年は10月上旬〜12月上旬で販売予定とのこと。この瞬間だけの芳醇な味わい、ぜひ体験してみてはいかがでしょうか。

写真提供：旬果瞬菓 共楽堂
Words：Yui Ichihara

2024/9/2

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