マスクメロンといえば、高級果実の代名詞。丸ごと1個のマスクメロンにナイフを入れると、メロンといちごのスライス、しっとりふんわりスポンジ生地、リッチな生クリームが繊細な層になったショートケーキが現れます。まるでマジックのような、驚きに満ちたケーキに目がクギ付け。贅沢にメロン1個分を使い、目も舌も心も満足させてくれるとびきりの味わいが、お取り寄せでも楽しめる、とっておきの逸品です。

メロン丸ごとケーキの発祥は、大阪の老舗寿司店

インパクト絶大のデザートの発祥は、実は「寿し 門司」という大阪・北新地の寿司店です。「え、お寿司屋さん？　なぜ？」と、謎が謎を呼びます。こんなに繊細な品がクール便での配送が可能ですから、サプライズな誕生日プレゼントなどにぴったりです。そうした二重三重の驚きに満ちたケーキが、どのようにして発案されたのか、本邦初公開のつくり方とともに教えていただきました。

寿司カウンターでパフォーマンス性の高いデザートを

メロンケーキの考案者は加藤幸樹さん。実店舗をもたずに、メニューのプロデュースや店舗の立ち上げなどを担う、若き精鋭のパティシエです。２年半前に寿し 門司の大将・門司知治さんに出会いました。寿司屋といっても、コース仕立て（税・サービス料込30,000円）で供し、デザートにも力を入れているこちら。お誕生日や記念日など、特別なお祝いごとにふさわしい、パフォーマンス性の高いデザートを考えてほしいというリクエストがあり、考え抜いた末に出来上がった逸品です。

お祝いごとにマスクメロンとは、ありきたりなプレゼントと見せかけて、切ると見事に層になったケーキが顔を出す。これには、どんな方でも驚かずにはいられません。「これほどインパクトの強いデザートはないね」と、大将もご満悦。すっかり、寿し 門司が誇る看板デザートになりました（メロン丸ごとケーキの料金はコース料金とは別）。

メロンをくり抜く、匠の技

現物を目の前で見ても、どうやって詰めるのだろうと、にわかには信じられないほどの美しいケーキの層に、興味は深まるばかりです。ここでは、門外不出であったつくり方をイチから見せていただきました。

まず直径15cmほどに焼き上げたふわふわのスポンジケーキを1.5cm厚さの5等分にします。いちばん下に入るスポンジケーキだけは、ひと回り小さいサイズに切り落とします。続いて、メロンの加工です。へたの部分を切り落とし、スプーンで丸く、くるりとくり抜きます。その後、さらに皮に沿って上から下へとスプーンを入れながらメロンの果肉をそいでいきます。ひとえにこのくり抜きが上手にできるか否が、メロンケーキの成功にかかってきます。皮から７mmほどを残して、きれいにそぎ取るのは、繊細な手の感覚ひとつにかかっているのです。球体から切り取った長方形のメロンの大きさがほぼ同じであるという、その正確さに改めて驚かされます。

リッチな生クリームと軽やかなスポンジを重ねる

次は、生クリームとスポンジを重ねていくプロセスです。生クリームは乳脂肪分48％のリッチなものを使用。砂糖を加えてしっかりと泡立て、メロンの底にたっぷりと絞り出します。これで、果汁が必要以上にスポンジにしみ込むことを防ぎます。続いて、小さいスポンジを平らに収め、上には再度生クリームを絞り出します。そしてメロンをひと切れ、次いで生クリーム、そしてスポンジ、と繰り返します。

次に、いちごのスライスを並べ、さらに生クリーム、メロン、生クリーム、スポンジ、生クリームと重ねていきます。メロンが球体なのに、いちばん下のスポンジ生地以外、サイズが同じなのにぴたりとはまるというのも驚きですが、そこは生クリームとの微調整で、しっかりと収まってくれるのだそう。まさに熟練の技です。

メロンの良し悪しが味の決め手

最後は生クリームを絞った上にサイズを合わせたメロンを上にのせ、手で押さえてなじませ、へたの部分をかぶせて出来上がりです。「メロンケーキが美味しいかどうかは、まず、メロンの質にかかっています。うちは、大阪でも最大手の『一番』という青果商から静岡産のマスクメロンを仕入れていますが、完全に熟する一歩手前のやや硬めのメロンが、ケーキにするには最適なので、その状態のメロンを揃えてもらっています」と山口さん。「メロンの良し悪しは、切ってみるまでわからないのですが、何千個とくり抜いていると、持ったときのずっしりとした重さでだいたいわかるようになりました」とも。

とはいえ、同じように見えるメロンも縦長なもの、ややつぶれているものと、微妙に形が違います。それを同じように調整しながらくり抜けるということは、やはり、匠の技ということでしょう。

メロン1個をまるごと余すことなく使った、贅沢なケーキ。しっとりふわふわのスポンジとまろやかな生クリーム、涼やかでジューシーなメロン、甘酸っぱいいちごが口の中でひとつになる、そのコントラストは見事のひと言です。

カウンターから宅配へ

宅配で取り寄せられるようになったのは、1年半前からのことです。加藤さんが大将に出会ってから1年の間、試行錯誤を繰り返し、宅配便に耐えうるだけのクオリティに仕上げました。専用のボックスをあつらえ、すっぽりとメロンケーキをおさめて固定し、クール便で運びます。これがまた驚くことに、つくり立ての美味しさがそのまま。

とっておきの記念日やお祝いごと、イベントのために取り寄せれば、主役になれること間違いなしのデザートです。

Word: Hiroko Komatsu　
Photos: Makoto Ito

2019/10/31取材
2021/3/26編集

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