with Blue : SDGs取り組み企業インタビュー vol.6
「捨てられる空気を、資源に戻す ~VOC濃縮とCO2回収が生む『使わないエネルギー』~」
2026年10月
「with Blue」では、社会のサステナブルな発展に貢献する企業の応援記事を投稿します。
毎回の記事を通してサステナブルな社会について話すきっかけをつくること、そして、サステナブルな社会の実現について考えたり話したりすることが日常として根付くことを目指しています。
第6回目は、株式会社西部技研(以下「西部技研」)を紹介いたします。
西部技研は福岡県古賀市に本社を置く空気処理技術のメーカーで、デシカント除湿機やVOC濃縮装置を世界約50か国に供給しています。カーボンニュートラルという言葉が当たり前になった現在、CO2排出量削減にダイレクトに貢献している「VOC濃縮装置」と、当社のコア技術であるハニカムローターを応用して大気中のCO2を直接回収する装置「C-SAVE Green®」について伺いました。
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目次
薄く広がったものは、始末が悪い
- インタビュアー:
- VOCという言葉は聞いたことがあっても、実態がつかめません。
- (株)西部技研:
- VOCは揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)の略で、トルエンやキシレンといった、常温で蒸発しやすい有機溶剤の総称です。塗料、接着剤、印刷インキ、洗浄剤などに含まれています。大気中に出ると、光化学オキシダント(光化学スモッグの原因物質)や粒子状物質の生成に関わることが知られており、世界各国で工場等からのVOCの排出が規制されています。
- インタビュアー:
- 工場からのVOCの排出を抑えるうえで問題となるのはどのようなことでしょうか?
- (株)西部技研:
- 工場の塗装ブースから出てくる空気は、風量がとても大きく、VOC濃度は極めて低い。この薄く大量の空気をそのまま燃焼処理しようとすると、巨大な燃焼設備と大量の燃料が必要になります。そうなると環境対策のためにCO2を大量に出す、という本末転倒が起きてしまうのです。
- インタビュアー:
- 薄いものは、始末が悪いということですね。
- (株)西部技研:
- まさにそのとおりです。そこで私たちが行うのは「濃縮」です。低濃度・大風量の排ガスを吸着ローターに通してVOCだけを吸わせ、加熱した少量の空気で脱着させる。すると、高濃度・小風量のガスになります。あとはこれを燃焼させればよい。処理すべき空気の量が減るので、燃焼装置は小型化でき、燃料も大幅に減ります。同じ量のVOCを無害化するのに、必要なエネルギーがまったく違ってくるわけです。
1988年、世界初のVOC濃縮ローター
- インタビュアー:
- いつからこの装置を手掛けているのですか。
- (株)西部技研:
- 1988年です。疎水性ゼオライトを使った溶剤(VOC)濃縮ローターを、世界に先駆けて商品化しました。当時と比べれば環境規制の水準はまるで違いますが、原理は変わっていません。現在は約30か国に5,000台以上を納入しており、この分野ではグローバル市場でトップシェアと認識しています。
- インタビュアー:
- 「疎水性」ゼオライトというのは、水を嫌うということですか。
- (株)西部技研:
- はい。排ガスには水蒸気も含まれています。もし吸着材が水を先に吸ってしまえば、VOCを吸う場所がなくなります。水よりも有機溶剤を選んで吸う材料でなければ成立しないのです。除湿機では水を吸わせるローターを、VOC濃縮装置では水を避けてVOCを吸うローターをつくる。同じハニカムという土台の上で、正反対の性質を設計している、と言えるかもしれません。
- インタビュアー:
- 削減効果は、どの程度になるのでしょうか。
- (株)西部技研:
- 当社のVOC濃縮装置の利用によって、ユーザーであるお客様側が削減しているCO2削減量は、合計で年間約200万トンと試算しています。装置メーカーとしての貢献は、製品を通じてお客様の排出をどれだけ減らせるかにあると考えています。
ビニールハウスでの違和感
- インタビュアー:
- ハニカムローターのコア技術を応用して、足元農業分野での貢献も目指されているとのことですが。
- (株)西部技研:
- 植物には光合成でCO2を吸収して育つという特性があります。そのため、閉じたハウスの中では作物がCO2を吸ってしまって濃度が下がってしまうので、施設園芸において、CO2は「足りない」資源なのです。そこで、ハウス内にCO2を補ってやる「CO2施用」という技術が、以前から行われてきました。従来は、灯油やLPガスを燃やしてCO2を発生させる方式が主流でしたが、脱炭素の時代に、CO2をつくるために燃料を燃やしているという構図に違和感を持ったのが出発点でした。ハウスの外の大気には、当たり前ですがCO2が含まれていますので、それを集めて濃くしてハウスに入れれば、燃料を燃やす必要はなくなります。
- インタビュアー:
- 薄いものを濃くする——VOC濃縮装置と同じ考え方でしょうか。
- (株)西部技研:
- そのとおり、VOC濃縮装置と構造は同じです。自社開発のCO2吸着材を担持したハニカムローターを搭載し、大気中のCO2を吸着させたあと、温かい風を送ることで脱着させます。植物の光合成量を高めるCO2濃度まで濃縮して、作物の葉の近くに供給する仕組みです。吸着と脱着を熱の出し入れで切り替える方式で、TSA(Thermal Swing Adsorption:温度スイング吸着)と呼ばれます。除湿機は水を吸わせるローター、VOC濃縮装置は有機溶剤を吸わせるローター、そしてこの装置はCO2を吸わせるローターです。何を吸わせるかを設計し直せば、同じ技術が別の課題に使える。これが当社の考え方です。
- インタビュアー:
- これは、いわゆるDAC(Direct Air Capture、大気中CO2の直接回収)と呼ばれる技術ですか。
- (株)西部技研:
- 技術的にはその系譜にあります。ただ、一般に語られるDACは、回収したCO2を地下に貯留することを前提にした大規模プラントで、コストの高さが最大の課題とされています。一方で当社のC-SAVE Greenは、回収したCO2をその場で作物に使ってもらう構成です。CO2に「使い道」がある状態から始めているので、事業として先に成立させやすい。回収の技術を実際の現場で育てていくうえでは、この順番に意味があると考えています。
- インタビュアー:
- なるほど。まず使い道のあるところから始めるのですね。
- (株)西部技研:
- はい。より濃いCO2を扱う装置も開発中です。発電所や廃棄物焼却施設の排ガスに含まれるCO2をハニカムローターで分離・回収し、中濃度から高濃度まで濃縮する「C-SAVE」です。薄いものを濃くするという同じ技術が、ビニールハウスから発電所まで通じています。
いちごの収量が27%増えた
- インタビュアー:
- 実際の効果はいかがでしたか。
- (株)西部技研:
-
高設栽培のいちごでの実証では、CO2を供給しない場合と比べて収量が約27%増加しました。
そして、この開発は当社だけで行ったものではありません。福岡県の農林業総合試験場や公益財団法人福岡県産業・科学技術振興財団(ふくおかIST)などと連携し、国の支援制度(中小企業庁 サポイン事業)も活用しています。装置をつくる技術はあっても、いちごがどの濃度で、どのタイミングで最もよく育つのかは、農業の研究者の知見がなければ分かりません。 - インタビュアー:
- 2024年4月の発売以降、高い評価を受けられていますね。
- (株)西部技研:
- 2025年に、第50回発明大賞の東京都知事賞をいただきました。公益財団法人日本発明振興協会と日刊工業新聞社が共催する、中堅・中小企業を対象とした表彰制度で、東京都知事賞は本賞に次ぐ位置づけです。福岡県内の企業としては2件目の受賞となりました。脱炭素の技術が、農家の収入増につながっている。そこが大事なところだと思っています。環境に良いから使ってください、というだけでは普及しません。燃料代が減り、収量が増え、ハウスが暑くならない。導入する理由が経済的に立つことが、結果として脱炭素を進めます。
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写真左)開発本部長 井上宏志 氏
写真右)プロジェクトマネージャー 吉田和行 氏
2030年に向けて
- インタビュアー:
- 最後に、今後の展望を教えてください。
- (株)西部技研:
- 当社は2030年のビジョンとして、「クライメイト・ニュートラルな未来実現のため、空気処理技術のイノベーション・リーダーであり続ける」を掲げています。現在は「中期経営計画2024-2026」の最終年度にあたり、コア事業でのシェア拡大と、装置単体の販売にとどまらないトータルエンジニアリングの拡大を進めています。ドライルームの設計・施工まで含めてお客様の課題に応える形へと、事業の幅を広げているところです。私たちの製品は、最終消費者の目に触れません。空気は見えませんし、空気を扱う装置は機械室の中にあります。それでも、「見えないところの積み上げ」で社会の脱炭素に貢献できる会社であり続けたいと考えています。
結びに
今回は、VOC濃縮装置と大気中のCO2を直接回収する装置「C-SAVE Green」に着目して、西部技研の環境貢献のかたちを伺いました。
取材を通して印象に残ったのは、「薄いものを濃くする」という一つの原理が、除湿にも溶剤回収にも熱回収にもCO2回収にも通じているという事実です。1974年に確立したハニカム成形技術が、50年を経て脱炭素の最前線の道具になっている。技術の蓄積とは、こういうことなのだと感じました。
VOC濃縮装置で年間約200万トンのCO2排出量削減という数字のインパクトだけでなく、CO2回収を「農家の収量が増える」という形で事業化した順番の巧みさは、環境価値だけでは動かない現場を、経済的な理由から動かす。脱炭素技術の社会実装を考えるうえで、示唆に富むアプローチではないでしょうか。
福岡県古賀市の企業がつくったローターが、世界約50か国の工場やハウスで空気を扱っている。「with Blue」では、これからもこうした、目に見えないところで社会を支える企業の取り組みに光を当てていきたいと考えています。
- 写真提供元:株式会社西部技研